80歳間近の父に免許返納を提案してみたが「あっち行けバカ」と暴言を吐かれる始末。国よ、免許を強制的に取り上げてくれ
世間から「大丈夫?」と思われがちな生涯独身、フリーランス、40代の小林久乃さんが綴る“雑”で“脱力”系のゆるーいエッセイ。「人生、少しでもサボりたい」と常々考える小林さんの体験談の数々は、読んでいるうちに心も気持ちも軽くなるかもしれません。第29回は「高齢者の免許を取り上げてくれ」です。 * * * * * * * ◆ニュースに震える 今回はのほほんエッセイでもなく、真面目な話になる。 ニュースから連日のように聞こえてくる、交通事故の一報。ドライバーの加害者が高齢で「何が起きたのか分からない」「ブレーキとアクセルを踏み間違えた」と、常套句のようなコメントが流れてくると、身の毛がよだつ。 私の父親も80歳が迫っているというのに、いまだに免許返納をせず、田舎で車を運転している。実家のある土地はいつの間にか高齢者たちが住む町になった。バスの本数も極端に減少、スーパーもコンビニも徒歩圏内にはないので、生活には不便だ。そんな町でもかつてのバブル期で栄えた時期に手に入れた、夢のマイホームなら手放したくはない。若い世代が抜けても、親世代は普通に運転をして、生活をしている。 内閣府の調査を読むと、高齢ドライバーによる交通事故件数は、平成21年から軒並み横ばいといったところだろうか。が、「75歳以上の高齢運転者は、操作不適による事故が28%と最も多く、このうちハンドル操作不適が13.7%となっている」という記述がある。つまり老化による、身体機能の低下によって起こる事故がほとんど。20~50代の現役世代が運転している状況とは違うのに、走らせている鉄の塊は同じなんて、やはりおかしい。 「車を運転していたのは、80代の高齢ドライバーでした」 アナウンサーが淡々と読むニュース。明日、もし身内が事故を起こしたら……。
◆バカと言われましても 他の家庭では免許返納問題をどうしているのだろうかと、同年代の友人に聞く。 まずは都内の友人たちの話。 「ウチの親父は免許返納に関して、全く聞く耳を持ってくれない。自分は事故をしないの一点張りでさ。仕方ないから、母親に代わりに免許返納の期限期日を入れた念書にサイン・代筆してもらったけど、無理だろうなあ」 「免許返納を弟が父親に言い出したら、取っ組み合いのケンカになっちゃったよ……。でもさ、自分が乗っていても思うけど、車は便利だから……。今さら父親が電車に乗れない気持ちも分かる」 一方で地元に戻るとまた感覚が変わってくる。同年代の友人たちも「(車がなかったら)生きていけないもんね」と、高齢者の運転に対して疑問を持たない、見て見ぬふりが多い。話題にさえしてもらえなかった。 今年の帰省時、私も父親に免許を返納してほしいと話した。彼は昭和19年生まれを絵に描いたような、全く融通の効かない高齢者。もうすぐ傘寿を迎える。 「別に自損事故で親父が死ぬなら仕方ないけれど、もし誰かの命を奪ったらどうするの? その後始末をするのは子どもなんだから。免許を返納すればタクシーの割引もあるし、移動はできるじゃない」 「うるさい! 俺は事故なんかしない! 免許は絶対に返しません。あっち行けバカ!」 (は? 「あっち行けバカ」とは? 今時、小学生だって使わないような言葉を娘に向かって吐く……?) 免許返納の話題よりも先に、父親とは全く会話が成立しないという事実が発覚。結局、言い合いになって終わった。帰省してもさしたる会話をすることもなく、10年以上が経過していたことに気づく。私が目撃した運転に対する慢心ぶりでは、免許返納もそう簡単に受け入れることもないだろう。「雨垂れ石を穿つ」の精神で、何度か話し合いを重ねようとした決意も見事に玉砕。終わった。