季節雇用の職人を正社員に、冬の北海道でも安定収入を 人口減少が進む小さな町とともに歩む住宅建設会社の3代目
◆少ないパイを取り合わず、外から人を呼び込む
----建設業界は人手不足が大きな問題となっていますが、どのような対策をしているのでしょうか? 強い危機感を持っており、とくに専門的な仕事を担う職人の不足と高齢化が深刻です。 弊社は10人の職人がいますが、うち5人が65歳以上。 このまま若い世代が入ってこなければ、5年で職人が半分くらいになってしまいます。 北海道浦河町の人口はこの20年で3割減り、大工などの職人は6割も減少しました。 仕事の発注があるのに人手不足で受けることができず、直近の売り上げが下がってしまう事態も起こりました。 同時に、住みたいイエが建てられない人や、イエに関する悩みで困っている人はいます。 今後も過疎化は進み、職人の人手不足どころか誰もいなくなってしまう可能性がある。 地域の少ないパイを取り合っても根本的な解決には至りません。 だから、外部から人を呼び込むため、採用をテーマにしたブログを発信し、大卒採用に向けたインターンシップを今年は2回実施しました。 全国から合計16名の学生が参加しましたが、地域のコミュニティができあがっていることが新鮮だったようです。 地元の人に声をかけてもらい、ここに暮らす人たちの温かさや、弊社が地域に根ざした建築会社であることを理解してもらったと感じています。 また、北海道は冬の雪で仕事がしにくいことから、建設業は季節雇用が多い土地でした。 しかし、それでは収入が安定しないので、事業承継後に正社員登用し、通年雇用に変えました。 まだまだ人材不足ですが、SNSを通しての発信やインターンシップで弊社に興味を持ってくれている人が増え、手応えを感じています。
◆人が減っていく故郷、企業として守り続ける
----従業員の評価制度や人材育成はどのように行っているのでしょうか? 神馬建設入社前に勤めていた土木会社で私は、会社に対して率直に意見を言うタイプでした。 同じ会社にいるということは、共通の目標に向かって働いている仲間です。 意見があれば、どんな立場でも遠慮なく言ってほしいんです。 逆に従業員に対しては、「このステージのときはこういう成果を求めているんだよ」「こういうところに気をつけて」「ここはできているけど、ここがちょっと足りてないと思う」など、会社としての希望やアドバイスを伝えています。 重要なのは、お互いに齟齬がないようにしっかり話をすること。 話し合いをしたうえで、意見や要望を文章化してより明確にすることも大切です。 評価の出し方は、数字の付いているベースとなる目標、それよりちょっと楽な目標、ちょっときつい目標の3つから選択してもらい、各自が目標を意識しながらやっていく形を取っています。 ----今後のビジョンや事業承継はどのようなものを描いているのでしょうか? 加速する人口減に対し、地元の神馬建設として何ができるかを考え、イエのデザインはもちろん、浦河町に住み続けるためにどうすればいいのかを確立し、地域に恩返ししていきたいです。 この地域は、高校からの進学率が80%を越え、多くの若者が進学のために地域外へ出ます。 でも、帰ってきたときに、「やっぱりここでの暮らしのほうが性に合うな」「懐かしいな」と振り返ることができる、魅力あるイエづくりを極めていきたいです。 そうすることで適切な人口が残るのではないでしょうか。 事業承継に関しては、MVVとコアバリューの理念を受け継ぎつつ、時代の変化に対応できる方に受け継いでいってほしいと考えています。 MVVとコアバリューがぶれなければ、神馬建設のレールに乗っている人たちが降りずにいてくれます。 あとは時代に合わせて建設が面白いと感じてもらえる方に承継してほしいです。
■プロフィール
神馬建設 代表取締役 神馬 充匡 氏 1977年6月5日、北海道浦河町生まれ。苫小牧工業高等専門学校・土木課を卒業後、1998年に岩倉建設入社。関東で土木現場の監督などを10年間務め、2010年に神馬建設に入社。父の逝去を受けて、2018年に代表取締役に就任。ニーズに合った「イエ」づくりなどの民間事業と公共事業の両方に対応しながら地域のインフラを支え、過疎化が進む浦河町および周辺エリアの地域活性化など幅広く活動する。