季節雇用の職人を正社員に、冬の北海道でも安定収入を 人口減少が進む小さな町とともに歩む住宅建設会社の3代目
建設業は慢性的な人材不足や職人の高齢化に直面し、地方は人口減少の歯止めが利かない。明るいとはいえない状況で、住宅建設などを手がける「神馬建設」(北海道浦河町)を父から継承した3代目・神馬充匡氏(47)。外から人を呼び込むにはどうすればいいのか。この地域に住んで良かったと思える「イエ」づくりを続けるにはどうすればいいのか。神馬氏は、正社員雇用や評価制度の導入、インターンシップなど、次々に新たな取り組みに着手し、「地元」に根ざした住宅建設企業として生き残りを図っている。 【動画】専門家に聞く「事業承継はチャンスだ。」
◆「どんぶり勘定」をやめ、企業理念と価値観を明確に
----2018年の社長就任後、どのようなことに取り組みましたか。 2010年に入社した後、社長就任前から推進してきた会社の組織化が一定進んだため、社長就任後は財務管理に力を入れました。 建設業は昔から「どんぶり勘定」的な財務管理が多い業界です。 以前の弊社もまさしく「どんぶり」で、計算が合わないことがよくありました。 地元信用金庫のセミナーに参加し、法人としての財務管理を学びました。 財務を明瞭にすることで、人材への投資や会社の福利厚生も充実することができました。 ――事業承継後の苦労話があれば教えてください。 承継2年目に受注案件のクレームが続いたことです。 承継1年目は勢いで乗りきれたのですが、2年目に大きめのリフォーム工事を受けたとき、お客さんが真に望んでいるものを提供できなかったんです。 説明不足などによって、追加の工事や費用が発生していまいました。 要望を表層的にしか受け取らなかったり、聞き取り間違えたりしたことが原因でした。 失敗を重ねたことで仕事の進め方を学び直す良いきっかけとなりました。 ----神馬建設が掲げているMVV(ミッション・ビジョン・バリュー)についてお聞かせください。 MVVは、「M(mission&purpose):地域のイエに関する困りごとの解決」「V(vision):イエづくりを通じたコミュニティの創出」「V(value):関わるすべての人々の心と身体を豊かにする」という企業理念です。 社員に「なぜ神馬建設で働いているのか」「神馬建設が必要とされるのはどういうことか」を説くためにMVVを掲げました。 弊社は私が3代目ですが、顧客や従業員の世代はバラバラで、中には初代の神馬建設から何十年も関わってくれている方がいます。 こうした方々を含め、神馬建設に関わるすべての方を今後も引っぱっていくとき、MVVというレールに長く乗ってもらおうと考えました。 顧客と従業員が神馬建設のレールに乗り、できるだけ降りないようにしていければ、会社は安定した成長が見込めます。 ただ、MVVは従業員がしっかり理解しないと意味がありません。 組織は大きくなるほど、組織の「当たり前」が全員に伝わりにくくなります。 そこで社長就任後、従業員全員と何度も話し合いの場を設け、弊社の「当たり前」をいろいろな角度から出し合いました。 そこでできたのが核となる価値観の「コアバリュー」です。 コアバリューは、「仲間を大切にする」「まずは自分から」「謙虚さと素直さを忘れない」「思いやりを大切にする」「ものや道具を大切に扱う」「高い成長意欲・変化を大事にする」「何事も誠意に向き合い、妥協しないプロ意識を持つ」から成る会社全体の価値観です。 言われてみれば「当たり前」なことばかりなのですが、共通認識として各自が理解していないと、「当たり前ではない」と考える人も出てきます。 職場環境の大きな問題に発展しかねません。 組織化をより推進していく上で、MVVとコアバリューの明文化と言語化はかなり力を入れました。 この二つを確立すると、離職率が大きく下がり、継承2年目にあったようなクレームやトラブルも減りました。 さらには、SNSなどで弊社の理念や価値観を知ってくれた新規顧客が増えるというメリットもありました。