セブン創業家が9兆円規模のMBO提案 中心軸は“川下”重視の伊藤忠か 鈴木孝之
カナダの流通大手アリマンタシォン・クシュタールから買収提案を受けているセブン&アイ・ホールディングスが、大規模な防衛策を講じつつある。11月13日には、創業家の資産管理会社である「伊藤興業」からMBO(経営陣による買収)の提案を受けたと発表した。銀行などと全株式を買い取り、非上場化することで買収に対抗する狙いがあるとみられる。MBOに伴う巨額資金を調達できるかがカギになる。 関係者によると、創業家の伊藤家や伊藤忠商事、セブンの主力取引銀行の三井住友銀行などのメガバンクがそれぞれ出資し、総額9兆円規模のMBOを検討しているという。実現すれば国内最大となる。 買収提案で最も危機感を持つのは伊藤家だ。コンビニ事業は、2023年3月に亡くなった伊藤雅俊氏が1973年にヨークセブン(現セブン-イレブン・ジャパン)として設立したのが始まりで、世界に誇るビジネスモデルに成長した。 「コンビニの生みの親」を中核にすれば、セブン本体や伊藤忠、メガバンクが「日本のコンビニ事業を守る」との同じ方向性でまとまりやすい、といった思惑があるのではないか。セブン側は「潜在的な株主価値の実現のため、全ての選択肢を客観的に検討している」とコメントした。 業界2位のファミリーマートを傘下に持つ伊藤忠がMBOのスキームに含まれていることもポイントとなる。「ファミマとセブン-イレブンの合併」との見方も流れたが、現時点ではその可能性は低い。 伊藤忠の連結子会社には食品卸大手「伊藤忠食品」がある。23年度のセブン-イレブンに対する売り上げは約760億円で、伊藤忠食品にとってセブンは有力な取引先だ。今後二つのコンビニが協業を深めることはあるかもしれないが、今のところは食品卸部分でのつながりで合併は考えにくい。このため、伊藤忠の参画が独占禁止法に抵触する可能性は低いだろう。 三井物産が出てこないのも今回の買収提案の特徴だ。三井物産はセブンの株主だが比率は1.9%にとどまる。コンビニ事業だけみれば、伊藤忠食品を介した伊藤忠とのつながりの方がはるかに強い。伊藤忠は「利は川下にある」との経営方針で、住生活など消費者に近い「川下」分野を重視している。これに対し三井物産は資源などの「川上」に比較的強い。セブンのMBOは今後、伊藤忠中心で進む可能性もある。
◇コンビニ新戦略 ただMBO成立後も課題は多い。非上場化すれば、株主対応にエネルギーを割く必要はなく、コンビニ事業の新戦略と、お荷物のGMS(総合スーパー)やSM(スーパーマーケット)事業といった非コンビニ事業の再編という二つの宿題に取り組める。 これらの改革に成功して企業価値を高めることができれば、3年後、5年後の再上場も視野に入るが、ハードルは高そうだ。巨額資金の確保を含めMBO自体はまだ不透明だが、今回の買収提案を、コンビニ事業の新戦略を打ち出し、さらに成長軌道に乗せるための出発点にしてほしい。 (鈴木孝之・プリモリサーチジャパン代表)