パノラマティクス齋藤精一が拓いた「NUNOの真髄の伝え方」
2018年には「こいのぼりなう!」展でコラボレーション。大規模個展への道を拓く
ウェブサイトでの関わりに始まって、2018年には須藤と展示デザイナーのアドリアン・ガルデール氏との共同インスタレーション「こいのぼりなう!」(国立新美術館)に参加、空間演出を担当した。そしてこの会場奥のギャラリーでも、製造現場の映像を流した。この映像に目を留めたのが香港の「CHAT(Centre for Heritage, Arts and Textile)」館長兼チーフキュレーターの高橋瑞木氏で、彼の地での展覧会へとつながっていく。
実際の布づくりを再現したコーナーは、織機や道具とテキスタイル、そして映像が一体となり、まるでその場で布が織られているかのようだった。製作工程を理解できることに加えて、マルチメディア・インスタレーションとして非常に見応えのあるものに。「玲子さんの、魔法をかける過程を見せたかった。本当は工場をそのまま持っていきたかった。僕はべつにデジタルにこだわっているわけでは全然なくて、道具のひとつですから」。CHATでの開催後、この展覧会はロンドン、エディンバラ、ザンクトガレン(スイス)を巡回。そして日本でも去年の丸亀市猪熊弦一郎現代美術館(香川県)、今年に入って水戸芸術館(茨城県)での開催となった。
この展示によって、「とても面白い現象が起きた」と齋藤氏が教えてくれた。「ミュージアムショップでの物販がものすごく動く。たとえば4万円のストールがあるとする。ただ製品を見ただけだと『布に4万円って!』となるのが、製作現場の映像を見ることで、どのような機械や道具で、現場の人が手を動かし、その上でこんなにも独創的なものが生まれる、ということが理解できる。この布には人が介在していて、素材にも技法にもこだわりがあって、玲子さんのアイデアが形になっていることにも思いが至る。そうすると、確かに4万円という価格が理解できる。プロセスを見せることで、投資と対価のバランスがわかる。これは日本のクラフトすべてに通じる、大切な視点だ」。グッドデザイン賞の審査委員長、東京クリエイティブサロンの統括クリエイティブディレクター、来年開催される大阪・関西万博のPeople’s Living Labクリエイターなど、数多くの要職に就いている齋藤氏だからこそ見える、日本のものづくりの可能性と課題を射たコメントだ。次回はこの点についての須藤の活動と、より俯瞰したときの齋藤氏の見解を聞いていく。