パノラマティクス齋藤精一が拓いた「NUNOの真髄の伝え方」
まず向かったのは、繊維産地として1300年以上の歴史を持つ桐生。袋帯の織機を活用した色とりどりのジャカード織「カラープレート」と、ケミカルレース技法を用いたレース状の「紙巻き」の製作現場を訪れた。続いて廃棄物扱いだった繭の外側から生まれる「きびそ」の山形・鶴岡、ベルベットに和紙を付着させる「アマテ」を生産する福井……。
演出を一切廃し、あるがままを映像で伝える
齋藤氏は少人数のチームを組み、須藤とともに各地を訪れ、映像に収めていった。凝った演出も、音楽も、須藤や工場の人たちのコメントも、そこにはない。それでいてはっきりと、NUNOの、須藤の布作りが浮かび上がり、テキスタイルの魅力が伝わってくる。自然があり、川が流れ、機械が音をたてながら、布が作られていく。人の姿はほとんど映っていないのに、布づくりに立ち向かう彼らの美しさが、しっかり見えてくる気がするほどだ。編集の妙がそれらをうまく伝えているのかと勘違いしそうになるが、ただただ、現場で行われていることを素直に撮っただけですと齋藤氏は言う。「作為的な意図などなくて、まったくの時系列。当時を振り返ると、演出を加えることに違和感を抱いていた。わかりやすく、説明的になることもいやだった。わかる人にだけわかればいいという思いで撮った結果だった」。
齋藤氏が「ほかの布作りの現場を撮ってもああはならない」と言う通り、これらの映像が成立しているのは、須藤のクリエイティビティと、彼女に共鳴して布づくりにはげむ現場の人たちという存在が欠かせない。「玲子さんって、魔法使いみたいじゃないですか?人にもモノにも魔法をかける。現場の方々も、玲子さんだから、NUNOだからやろうという気持ちがある。現場をそのまま撮るということは、技術の種明かしにもなりかねない。けど玲子さんのなかには『真似できるならやってみればいい』という気概がある。そこにも強く共感している」。