昌平に初の日本一をもたらした玉田圭司の情熱。就任1年目の新米監督が選手たちと築いた深い絆【総体】
訴えかける言葉もメッセージ性と熱がある
その一方でサッカーの厳しさも子どもたちに伝えてきた。「常に情熱を持っているし、毎週のように自分たちのために関わってくれるんです」(鄭)。楽しむだけではなく、勝負にこだわるマインドや球際で戦うスタンスを浸透させてきた。サッカーの原理原則に基づき、“ゴールを奪う”、“ゴールを守る”という部分を練習から徹底。それは普段のメニューにも表われている。 リーグ戦で無得点に終わった翌週は、ゴール前の崩しやフィニッシュに重きを置いたトレーニングを実施。相当な熱量で声をかけ、自らデモンストレーションを行なう時もあった。今までの昌平であれば、“巧さ”があっても得点を奪えない。そんなシーンも目立っていたが、今大会も含めて今季はゴールに向かう姿勢がグッと強まった。 また、子どもたちに訴えかける言葉もメッセージ性と熱がある。神村学園との決勝でも心に訴えかける場面があった。後半の半ば過ぎに取られたクーリングブレイク中の出来事だ。 1-1で迎えたが、旗色は芳しくない。特に左ウイングの長と右ウイングの山口豪太(2年)は積極性を欠き、仕掛けの意識が薄れていた。そこで指揮官は発破をかけたという。 「豪太と璃喜には相手の14番(名和田我空)と比較させてもらい、14番は素晴らしいけど、お前らもそれくらいの存在にならないといけないぞ」 気持ちに働きかけるだけではなく、具体的なメッセージと心をくすぐる言葉でモチベーションを上げる。玉田監督のカラーが滲み出ているシーンだった。 優勝が決まった瞬間、玉田監督の目には涙があった。「歳のせいかな」とおどけるが、子どもたちとともに掴んだ優勝は特別だった。 「大会を通じて成長したところは、本当に球際や戦う姿勢。テクニックや技術だけでは勝てなかった。それは選手たちが感じてくれて実行してくれたと思う」(玉田監督) 楽しさと厳しさ。サッカーに不可欠な要素を融合させた新米監督は「(本田さんの気持ちは)いまだにイメージできない」と監督業の難しさについて苦笑いを浮かべたが、初優勝の裏には玉田流のアプローチと信念があった。 取材・文●松尾祐希(サッカーライター)