展望・自民総裁選(1) 「安倍の時代」がおわる
芹川 洋一
自民党総裁選(9月27日投票)の候補者がほぼ出そろった。政権不信の大波から逃れたい一心の自民は、首相選びに直結する今回の選挙でどんな投票行動を見せるのか。3人のベテラン政治ジャーナリストがリレー形式で総裁選を展望する。
あとあと振りかえってみると、転機はあのときだったということが決まってあるものだ。自民党政治を考えるとき、岸田文雄政権がおわり、新たな政権が誕生する2024年はきっとそんな年になるにちがいない。 12年からつづいてきた故安倍晋三元首相による「安倍の時代」にいよいよ終止符が打たれ、新たな時代の到来をつげる総裁選になるとみられるからだ。
岸田政権とは何だったのか
まず3年に及ぶ岸田政権について考えてみたい。ここで指摘したいのは安倍政権からの政策の継続と転換という側面だ。平たくいえば、安倍で生き、安倍を変え、そして安倍でおわった岸田という見方である。 路線を継承・発展させたものは安全保障政策だ。そのいちばんの例が敵基地攻撃能力=反撃能力の保有である。 20年9月、安倍は政権を去る間際に「首相の談話」という異例の文書を発表した。閣議決定の手続きをへた「首相談話」ではなく首相の思いとでもいうものだ。直接的な言及はないものの敵基地攻撃能力の保有をうながす内容で、安倍の執念をかんじさせる置き土産だった。 菅義偉内閣で先送りとなったこの問題にケリをつけたのが岸田だった。22年末の国家安全保障戦略をはじめとする安保3文書の改定にあわせ、防衛費の国内総生産(GDP)比2%への増額とともに決定した。 原子力発電所の政策もそうだ。安倍、菅と思うに任せなかったものだが、22年末に廃炉が決まった原発の建て替え・新増設を検討し、運転期間の延長も打ち出した。 安倍を変えたものは経済政策だ。政権構想の柱だった成長と分配の好循環による「新しい資本主義」は中途半端なものにおわったとしても、新自由主義路線からの決別の方向は示した。官民連携による半導体産業への政府支援など「官から民へ」のひと昔前では考えられない政策だ。 とくに金融緩和に関しては日銀総裁の人事をつうじて転換した。13年安倍が任命した黒田東彦が任期満了になる機をとらえ、植田和男を起用して10年つづいた異次元の緩和の段階的な修正に動き出した。 そして岸田をおわらせたものは、いうまでもなく派閥の政治資金パーティー問題への対応のまずさだ。長年つづいてきた安倍派の「裏金」の扱いが中心だ。 これより先、22年には安倍の銃撃事件をつうじて明るみにでた旧統一教会と自民党との関係も、内閣支持率低下の一因だった。ここにも安倍のカゲがさした。 21年の総裁選を思いおこせば、安倍による高市早苗の擁立がなければ河野太郎政権が誕生していた可能性がある、その意味では安倍が岸田政権の生みの親といえるかもしれない。政権におわりをもたらしたのも安倍だとすれば、なんと皮肉なめぐりあわせだろうか。 ここ10数年は安倍の時代というのがここでの見立てだが、岸田はそこを生き、そしておわらせたとみる。岸田は派閥解消もあわせて、安倍の時代に幕を引いた。