展望・自民総裁選(1) 「安倍の時代」がおわる
こんども働くか「振り子の論理」
しばしば指摘されるように、長期にわたって政権を維持してきた自民党の知恵は「振り子の論理」だ。派閥間の権力の移動や、肌合いの異なる総裁の選出を時計の振り子のように右へ左へと動かし、疑似政権交代を印象づけて、長い間政権を維持してきた。 政治(安保)の岸から経済(所得倍増)の池田、官僚臭の佐藤から庶民派の田中、金脈の田中からクリーンな三木がまさにそうだ。そのあと福田赳夫、大平、鈴木善幸、中曽根と5大派閥の領袖がそれぞれ順番に総裁に就任したのも自民党なりの権力のバランスのとり方だった。 派閥が総崩れとなったリクルート事件のあと派閥の領袖ではなく無害なイメージのあった海部。「自民党をぶっ壊す」と叫んで、バブル崩壊で行き詰まった田中・竹下型の全国津々浦々、みんな等しく豊かになる政治を転換した小泉。ともに危機を迎えていた自民党の延命装置になった。 安倍・菅から岸田も、ハードなリーダーシップからソフトなリーダーシップへの転換によって政権のイメージを変える効果があった。 そのうえで今回の総裁選にはいくつかの特徴が見える。麻生派をのぞき派閥が解消を宣言、派閥による締めつけができなくなったことから派生したものだ。 ひとつ目は脱派閥である。これまでにないような多くの候補者が名乗りをあげているのは派閥のタガが緩んだからだ。候補者の推薦人も派閥横断で、投票にあたって個々の議員の判断によるところが大きくなりそうだ。 ふたつ目は世代交代の風が吹いている点だ。当選回数を重ね、年齢も60代の派閥の領袖か派閥が推す候補者ではなく、40代が手をあげている。旧来の実力者群が一気に吹き払われてしまいかねない状況もありうる。世代間対立の図式だ。 もうひとつ加えるとジェンダーの視点だ。それでなくとも男性優位の政治の世界、とりわけ自民党で女性候補を擁立しようとする動きが、女性議員の間で目立った。前回21年の総裁選と同様、複数の擁立を目指した。 脱派閥・世代交代・女性の3軸をめぐる戦いの中で何が浮かび上がってくるのか。野党による政権交代の可能性が低いのなら、権力をめぐる闘争にとどまらず、政策をめぐる競争も含めて疑似政権交代をしてもらうしかない。 政治とカネの問題で繰り返してきた自民党への不信感をぬぐい去り、低下してしまった国力を回復するための道筋をはっきり示せるのか。次のリーダーはいやおうなくポスト「安倍の時代」をつくっていく主役となる。(文中敬称略)
【Profile】
芹川 洋一 日本経済新聞社客員編集委員。1950年熊本県生まれ。東京大学法学部卒業・新聞研究所教育部修了後、76年に日本経済新聞入社。政治部長、大阪編集局長、論説委員長、論説フェローを歴任。東海大学客員教授。2019年度日本記者クラブ賞受賞。著書に『平成政権史』(18年)、『宏池会政権の軌跡』(23年)など。24年より現職。