展望・自民総裁選(1) 「安倍の時代」がおわる
田中・竹下・小泉の時代があった
政治権力ということを思えば、どの時代も、表か裏かは別にして、政治を回していく実の権力が存在するものだ。ときにキングメーカーになり、その力が強いとき政治はある種の安定状態にあり、逆にそうでないとき不安定になる。 自民党の歴史を振りかえってみよう。1955年結党から5年後、60年安保の岸信介のあとの池田勇人・佐藤栄作の時代をへて、72年から87年までの三木武夫・田中角栄・大平正芳・福田赳夫・中曽根康弘の三角大福中の時代がおとずれる。 78年の大平内閣、82年の中曽根内閣と田中の力が背景にあって誕生したのはまちがいない。85年2月脳梗塞で倒れるまでは田中角栄が自民党政治の軸だった。「田中の時代」といってよいだろう。 87年に中曽根が安倍晋太郎・竹下登・宮沢喜一の安竹宮のなかで後継指名した竹下政権はリクルート事件もあり短命でおわったものの、宇野宗佑、海部俊樹、宮沢とつづく政権は竹下派支配による権力の二重構造にその特徴があった。 竹下派の分裂を引き金とする非自民連立の細川護熙・羽田孜両政権は1年に満たずにおわりを告げる。そのあとの自社さ連立の村山富市、橋本龍太郎、小渕恵三といった政権も、濃淡の差はあれ竹下の影響下にあった。大くくりにいえば87年から竹下が亡くなる00年までは「竹下の時代」といえる。 佐藤から田中―竹下とつづいてきた権力の流れと利益分配型の政治をひっくりかえしたのが小泉純一郎だ。福田赳夫の流れによる悲願の権力の奪取だった。01年から5年5カ月政権を維持、「小泉の時代」を演出した。 麻生太郎・谷垣禎一・福田康夫・安倍晋三の麻垣康三の時代は権力者の空位時代だ。自民党の自滅で政権交代となり09年に民主党政権が誕生、12年に安倍で政権復帰を実現した。それから7年8カ月の安倍、1年の菅、そして3年の岸田と「安倍の時代」がつづいた。 実力者間の権力闘争、派閥の合従連携でトップをすげ替え、岸田による安倍路線のギアチェンジのように、巧みに政策も修正しながら長らえてきたのが来年25年で70年を迎える自民党の歴史である。