デザイナー・原研哉が手掛ける、新・温泉旅館ブランド「吾汝 ATONA」と泡盛「ZAKIMI」の全貌とは?
無印良品や松屋銀座、ヤマト運輸、JAPAN HOUSE、さらには、長野オリンピック開閉会式や愛知万博など、幅広い分野の企業や施設などでデザインを手掛け、さらには『RE-DESIGN:日常の21世紀』『HAPTIC』などの企画展を通じて既存のデザインの価値観に対して提言を行ってきたデザイナーの原研哉。 【写真多数】温泉旅館ブランド「吾汝 ATONA」と泡盛「ZAKIMI」の全貌とは? 先頃、ハイアット ホテルズ コーポレーションの関連会社(以下、ハイアット)と株式会社Kirakuが合弁事業で展開するラグジュアリー温泉旅館ブランド「吾汝 ATONA」の2026年以降のオープンが発表されたが、そのブランドディレクターを原が務めている。温泉旅館への滞在を通じて日本の本質的な魅力を体感してほしいという思いが、「わたしとあなた」を意味する古語を用いたブランド名に込められているという。 「日本の文化をていねいに発信していきたいとは思っていますが、自分のデザインの中に日本の伝統的な造形やアイコンをことさらに引用したくはない」と話す原研哉が、このプロジェクトに懸ける思いとはなんなのか。ひとつの転換点として、2019年にクライアントを持たずに自主企画として立ち上げたプロジェクト「低空飛行」が浮かび上がってくる。
自身のサイト「低空飛行」を通して見る日本
トップページに「飛行機の旅ではありません。こんな日本はいかがですか、と原研哉が選りすぐりのスポットを紹介するサイトです」と記されたウェブサイト「低空飛行」。場所の選定、写真、動画、文章、編集のすべてを原が手掛け、北は北海道の余市町余市蒸溜所から南は八重山諸島石垣島の八重泉酒造まで、2024年7月の時点で、神社仏閣や旅館、ホテル、産業遺構や庭園など、分野を限定することなく64件を紹介している。 コロナ禍の直前にスタート。およそ月に1度のペースで2泊3日の取材旅行を実施した。美しい写真と動画、シンプルでありながら味わいのある文章で構成されたサイトを訪れると、日本の自然や文化の豊かさに気づかされるはずだ。原はこのプロジェクトを「日本をテーマになにかを行うための基礎研究」と位置づけて立ち上げたという。 「伝統を掘り下げる目線のみで日本を見ているわけではありませんが、削ぎ落とされて研ぎ澄まされた特殊な感覚がこの国にあることは以前から感じていました。また、複雑な海岸線に囲まれた列島の大半が山で占められ、二十四節気のような繊細な季節の移ろいや、千数百年の熟成した歴史がある国である日本は、海外のいろいろな国を訪れるほどに改めて特殊な国だと実感させられます。しかし、世界の人々はこの場所の魅力をほとんど知らない。そこに気づいた時、日本列島という国土や文化というのは、確実に未来の資源になると感じたのです」