デザイナー・原研哉が手掛ける、新・温泉旅館ブランド「吾汝 ATONA」と泡盛「ZAKIMI」の全貌とは?
「ZAKIMI」の3銘柄を楽しめる椿山荘のメインバー「ル・マーキー」では、8月19日にソムリエの田崎真也を迎え、一夜限りのペアリングイベントを開催する。「ゆく」に4種の貝のサラダ仕立てを合わせるなど、3銘柄それぞれを食と組み合わせ、さらに広がる味わいの楽しみを提案。ブランディングを続けた先に、この「ル・マーキー」のように、高級ホテルや旅館のバーには「ZAKIMI」のボトルが並んでいるような状況を目指すという。 「100人に10人ぐらいは、まあまあお酒に強い人がいて、そのうち1人ぐらいはすごく強い。そういう人たちは確実に蒸溜酒をストレートで味わうのが好きなんですよ。これから海外からの来訪者が増えます。その100人のうちの1人が『ZAKIMI』と出会う場をつくっていきたい。ニッチともいえるかもしれませんが、それは隙間という意味ではなく、このお酒がたどるべき道すじをつくるようなイメージです」 そして、「吾汝 ATONA」の今後の展開の話へと続く。
日本の自然と融合した温浴文化
20代後半の頃、原はバリ島でおよそ初めてリゾートホテルを訪れた。夕刻、「ジ・オベロイ・バリ」というリゾートホテルの入口から、暗闇に浮かび上がるバリの彫刻を目指して階段を下りて行く。巨大なドアを開けると、緻密な装飾が壁面に施されたホールに出る。そこから屋外に出て、ウェイティング・バーへと案内された時の衝撃を次のように話す。 「浜辺へと幅広の階段を下りて行くのですが、その一段ずつの踏み板の両端に蝋燭が灯っていて、敷地の奥までうねりを伴って続いているのです。その光景に身震いを覚えました。インドネシアの文化は植民地文化ではあるのだけれど、やはりそのホスピタリティが高度に完成されていて、ひとつの国の文化がどれだけの効果をもって人をもてなすかということを痛切に感じたのが『ジ・オベロイ・バリ』での経験でした」 一方で日本は、第二次世界大戦後に一時アメリカの支配下にはあったものの、文化の歴史が途絶えることなく、自然観や精神性は受け継がれてきた。その価値を理解し、文化によってもてなせる宿泊施設に携わること。「吾汝 ATONA」には、その意志が込められている。 「私(吾)とあなた(汝)を意味する古語ですが、大事な人とふたりで過ごす場所をイメージできるかもしれません。それは夫婦や恋人かもしれませんし、家族や友人などいろいろなケースが考えられます。また、私と自然、のような大きな存在とのつながりという意味で捉えていただいても構いません。そういう広がりを持ち、日本流を押し付けて宿泊客に緊張感を与えてしまうのではなく、日本の価値観に裏づけられた澄みわたる空間をイメージし、過ごすことで気持ちが刷新される、身が浄化されるような体験もできる場になればと思っています」 ハイアットのロイヤルティプログラム会員のような、グローバルトラベラーが「日本を知る心地よい衝撃」を体験できる場。エキゾティシズムのインパクトに落とし込むことなく、その本質に触れることで気づきが生まれることを目指す「吾汝 ATONA」は、まずは由布、屋久島、箱根の3地域での展開を予定している。 「スイスにピーター・ズントーという建築家が設計したテルメ・ヴァルスという温浴施設がありますが、そこが非常に洗練されていたんです。コンクリートの建物ですが、アルプスの自然を受け止めつつ、そこでしか味わえない湯の愉楽を提供してくれる。そこでは大きな衝撃を受けました。日本の温泉には固有の愉楽感がありますし、また日本の自然には独自の美しさがあります。『吾汝 ATONA』を通じて、日本の温浴文化の発展に貢献できるように本プロジェクトに参画しています」