進む「中国帰国者」の高齢化 戦時中に現地で育ち日本語は上手く話せない…普通の介護施設には「踏み出せなかった」が中国語対応の施設が開所
全国最多の満蒙開拓団員を送り出した長野県
長野県長野市篠ノ井塩崎で介護福祉士の石井彩華さん(44)が開いたデイサービス施設が軌道に乗り始めた。帰国した元中国残留孤児の孫の妻である石井さんや、香港出身の介護員らが中国語で対応。現在は70~90代の7人が利用している。篠ノ井地区など市南部に多い中国帰国者やその2世は高齢化しているが、日本語が不自由な人も多く、施設は地域で欠かせない存在になりつつある。 【写真】石井さんが開いたデイサービス施設の外観
石井さんの夫の祖父は塩尻市出身で、戦時下に満州(現中国東北部)の方正県に入植。敗戦間際のソ連の対日参戦に伴う混乱で残留孤児になった。石井さんも方正県出身で夫と同じ村で育ち、結婚後の2000年に来日。生活の中で日本語を覚えていった。
帰国者2世たちも高齢化が進む中、周囲の帰国者家族の友人から介護サービスを利用したいものの、多くの既存施設は言葉が通じないため「一歩を踏み出せない」といった悩みを聞いてきた。そこで介護福祉士の経験を生かして6月、自宅隣に施設を開いた。
利用者とは、折り紙を折ったり、肉まんや水ギョーザを一緒に作ったりして過ごす。母が残留婦人だった市内の利用者の女性(75)からは、中国にいた頃の暮らしについて聞かせてもらった。女性は「中国語で一緒にいろいろな話ができてうれしい」と笑顔。7月以降は80代の帰国者2人も利用することになった。
篠ノ井塩崎でデイサービス施設を運営する沓掛将大さん(39)が運営面の相談に乗っている。8年前に事業を立ち上げ、「中国語での対応ができないか」との相談も何件か寄せられてきた。だが中国語を話せる職員を確保できず、実現は難しかったという。石井さんは同業者ではあるが、「地域全体の問題として(中国語対応の施設は)必ず必要だ」と考える。
石井さんの施設には、日本で生まれ育った看護師もいる。利用者には帰国者ではないお年寄りも。「帰国者もそうでない人も一緒に暮らす地域として、分け隔てなく受け入れたい」と話している。