〈目撃〉ぐるぐる回り続ける謎の奇病で死ぬ絶滅危惧ノコギリエイ、前例ない緊急事態に
原因も終息時期も不明、被害の魚種は44種から57種に拡大、米フロリダ沖
米フロリダ半島の先に延びるキーズ諸島では、最近、急激に衰弱して死に至る謎の病気が発生している。絶滅の危機にあるノコギリエイ科のスモールトゥース・ソーフィッシュにも被害が出ているため、米国の科学者たちは4月から米国史上初の試みとして、緊急の取り組みを開始した。 【動画】謎の病気でぐるぐる回り続ける希少ノコギリエイ 4月上旬時点ですでに30匹のソーフィッシュが死んでおり、そのすべてが体長2メートルから4メートルの成魚か成魚に近い幼魚だった。大西洋全域での乱獲と生息地の喪失により、野生のスモールトゥース・ソーフィッシュの群れは2つしか残っていない。そのうちの1つであるフロリダの群れには、繁殖可能なメスは650匹ほどしかいないようだ。 「絶滅の危機に瀕している種にこれほど致命的な影響が及ぶことは過去に例がありません。そのため、前例のない対応が必要になります」と、米海洋漁業局のソーフィッシュ回復コーディネーターのアダム・ブレイム氏は言う。海洋漁業局は、民間の水族館や非営利団体のネットワークと協力して、ソーフィッシュの捕獲と飼育に取り組んでいる政府機関の1つだ。 エイの一種であるスモールトゥース・ソーフィッシュ(Pristis pectinata)は、大きな歯のついたノコギリのような吻(ふん)と、エイのような平べったい胴と、サメのような尾をもっている。ソーフィッシュは、このノコギリ状の吻を左右に振り回し、海底の砂の中に隠れた獲物を掘り起こしたり、魚を気絶させたり、サメなどの捕食者から自分の身を守ったりしている。 「ヘッジトリマー(生垣バリカン)とエイとサメを魔女の大鍋に放り込むと、ソーフィッシュができるのです」とブレイム氏は冗談を言う。 30年生きることもあるこの魚は、2003年に米国絶滅危惧種法(ESA)の下で連邦政府の保護を受けることになった最初の海水魚だ。保護活動の甲斐あって、ソーフィッシュの数は徐々に回復していた……これまでは。 「米国のソーフィッシュの数は、フロリダの群れに大きく依存しています」と、フロリダ国際大学の海洋生物学者でサメの専門家であるヤニス・パパスタマティウ氏は説明する。なお、氏は今回の救出活動には参加していない。 だからこそ、今回のような緊急の対応が肝要なのだと彼は言う。「フロリダの群れが突然失われでもしたら、種全体が壊滅的な打撃を受けるおそれがあり、数十年にわたる保護活動を後退させるおそれがあるのです」 2023年11月以来、フロリダでは合計57種の魚でぐるぐると回転する行動が確認されており、その原因については調査中だ。