「ラフ筋トレ」で選手の競技力がダメに……運動科学の第一人者がひもとく日本スポーツ史上最大級の「失敗」
盛り上がりを見せる筋トレの、どこが間違っていたか
1980年代末までに筋トレは広く普及し、スポーツの世界では筋トレをするのが当たり前の状態にまでなったわけですが、その当時取り組まれていたのは、 「筋肉を増大させれば筋力は強くなり、筋力が強くなれば必ず競技力全体が強くなる」 という発想に基づいた筋トレでした。すなわち、筋力は単独の要素としてとらえうると考えられていたわけで、19世紀前半まで科学を支配した古典的な科学思想である「要素主義(アトミスム)」の考え方に基づいた筋トレが行われていたのです。 しかし、このスポーツ科学における「要素主義」的な学説を、私は同時代に発表した一連の著作で、次のように明確に批判しました。 「心技体をそれぞれ別の要素とすることはできない。それぞれの境界領域は定か(さだか)ではないし、その関係性たるや非常に深く、プラスにもマイナスの方向にも影響関係をもち、抜き差しならぬ密接な関係がある」 私がよりどころとしたこの科学的立場は、要素主義に対して「関係主義(ホーリスム)」といいます。私の学説は当時の優秀な若手~中堅の年代の研究者や、コーチ、トレーナーに広く浸透していきました。 現在のスポーツ科学やスポーツの世界では、要素主義の考え方はかなり廃れてきています。その背景には、関係主義に立脚した私の批判の影響もありますが、もう一つ、要素主義に基づいたトレーニングを行った結果、かえってパフォーマンスが低下するという現実に各競技の指導者や選手が直面したためでもありました。 どういうことか、後半記事【金メダルがわずか4、5個に激減……運動科学者が解き明かす日本スポーツ「暗黒の時代」とその「意外な原因」】で説明しましょう。
高岡 英夫