「ラフ筋トレ」で選手の競技力がダメに……運動科学の第一人者がひもとく日本スポーツ史上最大級の「失敗」
たかが筋トレと侮ってはいけない。スポーツ史に目を向けると、力任せの誤った筋トレ(ラフ筋トレ)で我が国のアスリートの成績がガクッと低下した「暗黒の時代」が確かに存在する。75歳を超えてなお、現役の運動科学者として活躍する高岡英夫氏が、間近で見てきた日本スポーツの知られざる「失敗の歴史」を解き明かす。最新刊『レフ筋トレ 最高に動ける体をつくる』より抜粋。 なぜイチローは筋トレを「否定」したのか……運動科学の第一人者が解き明かす真理
日本スポーツ界の知られざる歴史をひもとく
みなさんは、スポーツの領域で筋トレが行われるのは「当たり前」のことだと思っているでしょう。 ところが、1970年代までの競技スポーツの世界は、筋トレをほとんどやらずに、競技だけに励むことがめずらしくありませんでした。当時は、スポーツ科学の黎明期(れいめいき)ともいえる時代で、「科学的にスポーツの競技力を向上させる」とか、「科学的知見に基づいた筋トレが、スポーツの競技力を向上させる」という考え方自体がまだ乏しかったのです。 筋トレが存在しなかったわけではありませんが、たとえば高校野球では、筋トレをまったくしないチームが甲子園に出場して優勝を争ったり、優勝したりすることがあったのです。卓球やバドミントン、剣道など、強大な筋力は無益と考えられていた競技種目では、筋トレをまったくやらない選手のほうがむしろ多かったくらいです。 ところが1970年代から80年代にかけ、その状況は急激に変化していきました。アスリートだけでなく、一般の間でも筋トレが盛んに行われるようになり、そして今日まで続く「筋トレブーム」が到来することになりました。 筋トレを行えば、確かに筋肉は大きくなり、筋出力も上がります。ところが実は、そのまま力任せのトレーニング(ラフ筋トレ)を闇雲に続けていると、人間のパフォーマンスはかえって低下していくのです。そのことを認識して筋トレに取り組んでいる人は、果たしてどれだけいるでしょうか。 実は我が国のスポーツ界は、かつて成績を大きく落としてしまった時期がありました。その背景には、実はラフ(粗野で洗練されていない)なトレーニング、すなわち「ラフ筋トレ」が関係していたのです。この記事ではその「失敗の歴史」をあえてひもとき、私たちに本当に必要な筋トレとはどのようなものか、考える端緒としたいと思います。