“ぴちぴち戦略”人口2万人の町に年間120万人来店のヒミツ
しかし、そこは海の男たちが牛耳る現場。門外漢の女性、梶山の言葉に誰も耳をかさなかった。 「初めのうちはみんな反発しました。『女が社長だ』とか。女性に使われることが、私たちの時代だと抵抗があった」(入社21年・相川輝樹) 「『ここをこうしたらもっと売れるのではないか』と提案しても、『お前が右に行けというなら、俺たちは絶対、左に行く』と、そんな雰囲気が満載でした」(梶山) 梶山が入社した当時、売り場は薄暗く、倉庫のようだったと言う。魚は安い日に大量に買うため、日にちが経ったものも多かった。港から近く、セリ権を持っている魚太郎の武器が、全く生かされていなかった。 そこで梶山は社員たちに「仕入れた魚はできるだけ早く売りませんか?」と提案するが、「魚はもつんだ」と反対された。 「何が一番の強みかというと鮮度なのに、この町で生まれ育った人たちは、鮮度が宝物だとあまり思わない」(梶山) 梶山は競り落とした魚をその日のうちに売り切ることを徹底。すると客が違いに気づき始め、評判になる。 さらに、活きの良さを見せようと、店内の照明にもこだわった。ディスプレイも一つ一つ考え抜いた形に。以前はポップに値段しか出していなかったが、売りが一目で分かる、ポップ作りを徹底した。 「その商品の良さをできるだけ短く的確に伝えることをずっとマーケティングでやってきたので、その経験が生きているのかもしれません」(梶山) やり合うこと約10年、結果が出ると、いつしか古参の社員たちも頼もしい味方になる。 「お客さんが身近に感じる店を作り上げてくれた」(入社21年・日比浩司) 「やはり実績。社長が言ったことが全部当たっていく。そうすればみんな、ついていく」(前出・相川) 店舗の増加に伴い、梶山はある仕組みも導入した。朝礼で入荷情報を発表すると、従業員はそれぞれスマホを取り出し、動画を再生している。タイトルは「魚太郎の学校」。 「ワタリガニのオスとメスの見分け方……」などと、対面接客に必要な情報をまとめた社員手作りの学習ツールだ。店舗増加で加わった若手従業員らが重宝している。 入社1年目の社員は「市場には1回しか行ったことがなく、ワタリガニは見たことがない。調理方法やむき方など、お客さんに説明できるように覚えました」と言う。