「新潟の過疎地のスーパー」になぜ「ドンペリ」が並ぶのか?お客と売上を激増させた「意外な発想」
ITの発達により「すぐに答えがわかる」時代になった、しかしその弊害として自ら考えることをしない人が増えたことによる「お客さんの劣化」が起きている……。前編記事〈忍耐力のないクレーマー、モノの価値がわからない客が増加中…いま「お客さんの劣化」が進む「深刻なワケ」〉で紹介したこの状況に、私たちはどう対応すればよいのだろうか。マーケティングの専門家で、著書に『顧客の数だけ、見ればいい』がある小阪裕司氏が、「お客さんを育てる」発想で顧客を増やし、売上を伸ばした地方スーパー「エスマート」の事例を紹介しながら、ヒントを探す。 【写真】心ない人に「マウンティング」されたら使いたい…相手をビビらせるフレーズ
過疎地で高級シャンパンが売れる理由
「お客さんの劣化」が進む時代。しかし実は、ここに道があります。それは、「お客さんを育てる」という発想です。 この発想でまさに顧客を増やしているのが、「エスマート」です。 エスマートがあるのは、新潟の過疎地。しかも、まわりは本当に何もない田園地帯です。しかし、驚くことにこのスーパーの売り場には、少し前まで「ドンペリ」や「ルイロデレール」といった高級シャンパンも並んでいました。 その理由は、まさにこの店が顧客を育てたからでした。 同店では以前、ワインは3カ月に5本くらいしか売れず、ワイン売り場も小さなものでした。エスマート店主の鈴木さんはそのころ、高齢者が多い地域であることもあり、この地域の人はワインを飲む習慣がないのだと考えていたそうです。 また鈴木さん自身、ワインに慣れ親しんでいないという事情もありました。店での販売にも力が入っていなかったのです。 そんなある日、地元での友人たちとの飲み会で、飲みやすく美味しいワインに出合った鈴木さん。ワイン初心者である自分は難しいうんちくは語れないが、「初心者にとっても美味しい」ことは語れる、「初心者の自分がはまっている」という情報なら発信できると思い立ちました。
お客さんを育て、顧客を増やし、売上を増やす
そこで早速このワインを仕入れ、店頭で「ワイン初心者が飲むべきワインはこれ!」と発信したところ大人気に。たった1銘柄で、1カ月で30本以上が売れました。その後リピーターも増え、このワインはすっかり売れ筋商品となったのです。 すると今度は、顧客の中に「初心者」ではない人が増えてきます。そこで「次に飲むワインはこれ」と品揃えを拡充、自らもワインに詳しくなっていきます。それにつれ、ワイン売り場も大きくなっていき、高級ワインも品揃えされるようになりました。 そうして1年が経つと、ワインは月に40本前後がコンスタントに売れるようになっていました。3カ月の売れ行きで比較すると、実に24倍です。 さらに驚くことに現在は、年間およそ1500本が売れると言います。なんと75倍です。 そしてついには、ドンペリやルイロデレールといった高級シャンパンが並ぶようになったのです(現在は価格高騰・入手困難のため並んでいません)。 これは、「ワイン」というジャンルにおいて、まさに「お客さんを育てて、顧客数を増やし、売上を増やした」ということです。 しかもこの取り組みが証明してくれているのは、その商品をまったく利用していなかったお客さんでも、「育てる」ことは可能であるということです。同店ではこのような営みがすべての商品ジャンルにおいて行われています。