弁護士なしで法廷へ 年間7万件“本人訴訟”メリット・デメリットは?コスト軽減も“対弁護士”は勝率低下 他の方法は?
■本人訴訟、今後も増える?
さんきゅう倉田のケースは勝訴に終わったが、本人訴訟は今後も増えていくものなのか。元明石市長で弁護士の泉房穂氏は「本人訴訟をもっとできるようにしたらいいと思う」とういう推進派だ。「今の法律は難しすぎるし、裁判所も不親切。子どもの養育費を取る時に、月3万、5万のために裁判ができるのか。海外だと、ドイツやフランスは法律上、絶対に弁護士をつけないといけない。ただその代わり、ドイツは弁護士の費用は一応決まっている。勝ったら相手が弁護士の費用を払うので、自腹を切らなくても全額返ってくる」と述べた。 デメリットもある。やはり法律の素人が、単身で専門家である弁護士と渡り合うのは、非常に難しい。深澤氏は「一番は本当に自分のことなので冷静に判断ができないということ。私たち弁護士も、自分が裁判の当事者になったら、確実に他の弁護士を頼む。特に先ほどの話で、自分で言わないと裁判官がやってくれないというが、これは『当事者主義』とか、あるいは『弁論主義』という。裁判は自己責任で、主張するとか証拠とか、全部本人の責任にしようという考えがある。逆に裁判所がいろいろこういう証拠を出せと言うと、公平ではないと思われる。公平らしさは裁判では大事で、そこが損なわれる」と、味方がいない状態で争うことのタフさを伝えた。 また、「裁判で裁かれているというのは原告・被告ではない。『訴訟物』と言って、請求している権利義務だ。あとは『紛争の渦中にいると判断力を奪われる』。これは本当にそうだ。判断力がどんどん削られて、どんなに賢い方でもおかしなことを言い出すことが結構ある」とリスクを説明。実際、原告から見た裁判の勝率では、本人VS弁護士なら勝率32.4%、逆に弁護士VS本人なら91.2%と大差がある。なお本人VS本人(67.0%)、弁護士VS弁護士(67.3%)と、ここにはほとんど差がない。
■裁判以外の選択肢は?
コストのメリットはあれど、勝率が低いというデメリットがあれば、なかなか本人訴訟も進まない。泉氏は「素人であろうがプロであろうが、ちゃんと結論として同じになるのが本来の姿。日本の場合は極端に詳しい弁護士が得をするような制度になってしまっているが、それは違うと思う。ちなみに明石市では弁護士を10人以上採用する。その弁護士が家庭訪問をしてちゃんと相談に応じる。訴状を書くのもちゃんと手伝う。弁護士にお金を払わなくても、裁判ができるように手伝っている」と例を出した。 これに深澤氏は「公費でやるということは、弁護士が国家に雇われるということ。そうなってくると、独立はどこまで維持できるかという問題がある。確かに公費でやるのは一番シンプルで良い手段だ。ただ、それで弁護士の独立性が保てない」と課題を指摘。その上で「確かにお金がない人の問題がある。これについては今かなり不十分ではあるが、法テラスやそういう制度もある。さらに裁判という方法にこだわる必要はない。つまり裁判は最後の手段だ。ADR(Alternative Dispute Resolution)裁判外紛争解決手続がある。法務大臣の認証をとると、民営の裁判所が作れる制度だ。お互いの同意が必要で、話し合いを仲裁して、同意したことには強制執行も可能な判決に似たような効力を与えるという制度」と紹介。「アメリカではこの制度がかなりよく使われている。フリーマーケットなど、いわゆる個人間のオンライン取引は本当に数千円とかなので弁護士を立てられない。そういった場合にはADRの仲裁機関が返品を認めなさい、などとやっている」と述べた。 (『ABEMA Prime』より)
ABEMA TIMES編集部