イタリア総選挙、銃撃事件で移民問題が争点に浮上 変わる差別の構図
移民・難民問題で不安煽る「北部同盟」
北部同盟は1991年に地域政党として誕生した。当初は経済的に豊かなイタリア北部の自治権拡大を党の方針として掲げていたが、イタリア政界の動きと共に党のカラーを左右両派にシフトチェンジしてきた過去もある。2013年に行われた書記長を決める党内選挙に勝利したマテオ・サルビー二氏は、学生時代に左派組織で活動を行なってきた異色の経歴を持つ。「北部同盟」書記長就任後には、ポピュリスト色を鮮明にし、反EUと移民受け入れの見直しの二つを党の主要政策のトップに据えたのだ。シルビオ・ベルルスコーニ元首相が率いる中道右派政党「フォルツァ・イタリア」との連携も発表しており、この2党で有権者の3割近くを獲得するだろうという見方が強い。
イタリアには与党の民主党の他に、反EUと縁故主義の撤廃などを訴える「五つ星運動」という影響力の強い政治運動も存在しており、(連立を含めて)どの政党がトップに躍り出るかが読めない、混沌とした状態のまま投票日を迎えることになる。 サルビーニ書記長は、イタリア国内に住むイスラム教徒を「イタリアを侵略する脅威」と呼び、有権者の不安を煽ってきた。ローマカトリック教会や民主党の閣僚はサルビーニ書記長に対し、言葉のトーンを少し落としてみてはいかがかと忠言したが、サルビーニ氏は選挙期間中に党の支持をさらに高める目的で「移民・難民カード」を切っている。選挙結果によっては、北部同盟の代表者であるサルビーニ氏がイタリアの首相になる可能性もゼロではないため、支持者たちは「サルビーニを首相へ」と書かれたプラカードを手にして選挙活動を続けている。
イタリアの総選挙は現地時間4日の午前7時から投票が開始され、午後11時に投票が締め切られる。公式の選挙結果が発表されるのは5日午後の予定だが、投票が締め切られた直後に出口調査によって大勢が判明する見通しだ(日本時間で5日午前7時過ぎ)。この数年の間にヨーロッパ各地で行われてきた選挙と比較しても、最も結果が予測しづらい選挙の一つと伝えられる今回のイタリア総選挙だが、最大の争点として浮上した移民問題について有権者はどのような判断を下すのだろうか。
------------------------------ ■仲野博文(なかの・ひろふみ) ジャーナリスト。1975年生まれ。アメリカの大学院でジャーナリズムを学んでいた2001年に同時多発テロを経験し、卒業後そのまま現地で報道の仕事に就く。10年近い海外滞在経験を活かして、欧米を中心とする海外ニュースの取材や解説を行う。ウェブサイト