兄さん、がめついじゃないか…「遺産9,000万円」を遺して亡くなった86歳父、3人兄弟の仲を引き裂いた〈曖昧な遺言書〉の気になる中身とは?【弁護士の助言】
さらなる悲劇
俊夫さんは、その後数か月の間、何回か誠さんと話し合いをしました。しかし、話は平行線でした。そのため、俊夫さんは、雅人さんに連絡してこれから誠さんとの間でどのように話し合いを行っていくべきか、打ち合わせの場を設けました。 打ち合わせの途中で、俊夫さんと雅人さんは、ふと二人で康夫さんの財産をすべて取得することになった場合、どのように分けるべきかという話題になりました。 そこで俊夫さんは、自分が主に康夫さんの世話をしてきたのだから、自分が少し多くもらうことが「平等」な分け方だと考えていると述べました。 雅人さんは当然、二人で2分の1ずつ分けることが「平等」な分け方と考えていたので、俊夫さんの考え方をばっさりと否定しました。 俊夫さんは、雅人さんとの間では「気持ち多くもらえたらいいな」という認識で、自分が大変だった気持ちを汲んでくれるならば、そこまで強く自分が多く取得することを主張するつもりはありませんでした。 しかし、生前ほとんど康夫さんと交流がなく、康夫さんが亡くなったあとの誠さんとの交渉を自分に任せっきりにしていた雅人が、まったく自分の気持ちを考慮することなく、2分の1を要求してきたことで、ついカチンときてしまい、雅人さんとの間でも喧嘩になってしまいました。
訴訟へ
誠さんと俊夫さんとの間だけではなく、俊夫さんと雅人さんとの間でも喧嘩になってしまったため、三者間でこれ以上話し合いで解決することはできない状態になりました。 そこで、誠さんは、弁護士に依頼して、自宅の土地建物の所有権が自分にあること、土地建物の登記を自分に移転させるために、俊夫さんと雅人さんに対して、訴訟を提起しました。 訴訟のなかで、「自宅土地は誠が守ってください」の意味合いが、誠さんに所有権を譲るという内容であるか、争われました。 裁判所は、各当事者の主張立証を聞いたあと、誠さんに対して、同遺言書の文言から、当然に自宅土地建物を誠さんが取得する、という意味であるかは明確ではないという心証を伝えました。そして、3人に対して、法定相続分にしたがって3分の1ずつ取得するという内容の和解をすすめました。 誠さんは、最終的に自宅を含めたすべての財産を俊夫さんと雅人さんに取得されてしまうリスクを考えて、法定相続分で分けるという方針に応じることにしました。 一方、俊夫さんと雅人さんも、仮に勝訴したとしても、誠さんから遺言書が全体的に無効であるという訴訟を提起される可能性や、俊夫さん・雅人さんの間でさらなる係争が残ってしまうことを避けたいという気持ちから法定相続分で分けるという方針に応じることにしました。 その後、誠さんは、自宅に居住することを希望しましたが、俊夫さんと雅人さん側から提示された代償金の金額は、到底支払える金額ではありませんでした。 誠さんも、知り合いの不動産業者に相談しましたが、俊夫さんと雅人さんが提示してきた代償金の金額はやや高いが、不動産の評価額を低く見積もっても、代償金を支払うことが困難であることがわかりました。 その結果、誠さんは不動産を取得することを断念して、3人で不動産を売却して、預貯金を含めて三者間で3分の1ずつ取得しました。 遺産分割が完了した時点で、誠さん、俊夫さん、雅人さんの3人の絆は完全に壊れてしまっていました。