富士通の子会社でDX専門のコンサルティングをするRidgelinez
富士通グループの出島であるが、離島ではないとする意味は? 【もっと写真を見る】
今回のひとこと 「Ridgelinez と、富士通のFujitsu Wayfindersは、完全に棲み分けることは難しい。だが、大きな違いがあるとすれば、それは立ち位置の差である」 富士通の100%子会社として、2020年4月から事業を開始したRidgelinez。それから4年を経過した。 DXの専門コンサルティングファームとして事業を展開するRidgelinezは、富士通グループにおけるDXビジネスの先駆者に位置づけられ、富士通とは切り離した新たな仕組みや制度のもとで、柔軟性と機動性を持って、DXビジネスを展開してきた。 Ridgelinezの今井俊哉CEOは、「4年前の社員数は約240人。私を含めた約10人以外は、富士通総研や富士通からの出向者だった。だが、いまでは、約180人が富士通グループからであり、約300人が外部からの採用者となっている。富士通グループの社員は、4年間に渡って、Ridgelinezのなかで働いてきたことで仕事のやり方が変わり、視点も変わった。また、外部から即戦力になる人たちが入ってきたことで、Ridgelinezの変化につながっている」とする。 富士通という大陸につながった出島、しかし離島ではない 富士通の時田隆仁社長は、Ridgelinezを「出島」と表現するが、その言葉は、富士通とRidgelinezの関係性と立ち位置を明確に示している。 Ridgelinezでは、富士通の顧客を対象にした「富士通起点」のビジネスが、現在でも約3~4割を占めている。富士通の社員がRidgelinezで働くなど、両社間では人材が行き来しており、さらに富士通が開発するAIをはじめとする最先端技術においても連携ができるようになっている。 富士通という大きな「大陸」と、つながっているRidgelinezの状況は、まさに「出島」である。 富士通の時田社長は、「離れ島ではなく、出島としてつながっていることでのメリットが多い」とする。また、今井CEOは、「これだけの規模の会社でありながら、資金繰りのことで悩んだことはない。これも出島のメリットのひとつである」と冗談交じりに笑う。 だが、「出島」のなかに入ってみると、そこにはRidgelinez独自の文化がある。 働き方や仕事の進め方は、富士通の文化とはまったく異なる。実際、制度やルールは、Ridgelinez独自のものを採用している。 「Ridgelinezのなかには、日本の大企業のなかで育った人では通用しない文化がある」と今井CEOは断言する。 なかでも、「スピード」については、大きな差があることを指摘する。 もともと新卒で富士通に入社した今井CEOは、その後、ブーズ・アレン・アンド・ハミルトンやSAPジャパン、ベイン・アン ド・カンパニーPwCコンサルティングなどの外資系企業で勤務。スピードの差を自ら体験してきた。 「日本の伝統的な企業に共通している課題は、なにかを投げると、帰ってくるまでに時間がかかりすぎるという点。階層が多いというだけでなく、受け取った人が、それを一定期間抱いてしまい、何も判断せずに次に投げるということが普通に行われている。その理由がまったくわからない」と、日本の大手企業に浸透している文化に疑問を投げかける。 「こうした文化のままで、なにをやってもスピードはあがらない。Ridgelinezでは、そのやり方は通用しない。社内では、すぐに答えを返すことを徹底している」と語る。 ある企業では、システムが稼働するまで6カ月から12カ月かかっていた案件が、Ridgelinezでは、2カ月で完成し、3カ月目には稼働したケースがある。 「これは、凝縮して3倍働いたわけではなく、不要なことをなくし、自動化できるところは自動化した成果である。Ridgelinezの仕事のやり方が反映されたものであり、それが評価されている」という。 また、完璧なものよりも、スピードを重視する経営者が増え、社会の受容性が変化してきたことも、Ridgelinezのスピードに対する評価が高まっている理由だとする。 「従来は、お客様の多くが、時間がかかっても100%完璧なものを作ろうとしていた。だが、いまは、3分の1の期間でできるのであれば、70%の精度でもいいと判断をする経営者が増えてきた。1年後に高い精度で意思決定をするよりも、2カ月後には経営判断に使うことができ、そのスピードをもとに意思決定を繰り返し、決定の精度をあげたほうが経営にとってはプラスであるということが浸透してきた。そもそも1年後に完成したシステムでは、もはや時代にあわなくなることをコロナ禍で経験したお客様が多い。社会の受容性が変化している。石橋を叩いて渡る手法では限界があることに、多くの経営者が気づいている」と指摘する。 そして、「スピードがあがることは、Ridgelinez自らの仕事へのメリットだけでなく、この経験をお客様に直接話すことができ、それを実践できるというRidgelinezの強みにもつながる。DXを進めるには、文化を変えなくてはならない。その第一歩ともいえる変化がスヒードであり、それを自分たちの体験として語ることができる」とする。 グルーープ社員数12万4000人の富士通と、500人弱のRidgelinezでは、動き方に差が出るのは明らかだ。「出島」ならではの文化がここにも生きている。 重なる領域でも異なる立ち位置 富士通は、2024年2月、コンサルティングサービス「Fujitsu Wayfinders」を新たに開始した。ビジネスコンサルティングとテクノロジーコンサルティングの両軸から展開。富士通が中期経営計画で推進している事業モデル変革の「最後のピース」にFujitsu Wayfindersを位置づけるとともに、Fujitsu Uvanceの先導役になるとも語る。さらに、富士通では、コンサルティングスキルを持つ人材を、現在の2000人から、2025年度までに1万人規模に拡充する計画も明らかにしている。 富士通の時田社長は、「富士通は、ビジネスコンサルティングに加えて、もともとの強みであるテクノロジーによるコンサルティングを組み合わせることで、新たな事業機会の創出を狙う」とする。また、富士通の磯部武司副社長 CFOは、「社内でのリスキリングや外部採用により、短期間で1万人体制にしていく。コンルティングケイパビリティの強化に向けて、投資のアクセルをしっかり踏むことが大切であり、このリソースがしっかりと育てば、Fujitsu Uvanceの売上げ拡大につながる」とする。そして、富士通の大西俊介副社長 COOも、「Fujitsu Wayfindersは、富士通が、本格的に、本気を出してコンサルティングビジネスに取り組む宣言になる」と語る。 気になるのは、RidgelinezとFujitsu Wayfindersの棲み分けは、どうなるのかという点だ。これに対して、Ridgelinezの今井CEOは、「富士通のFujitsu Wayfindersとは完全な棲み分けは難しい」と語る。さらに、「極論すれば、提供するメニューは、最終的には同じようなものになるかもしれない。むしろ、オーバーラップする部分があったほうが、協業がしやすいというメリットが生まる」と語る。 だが、基本的に異なる部分があるとも指摘する。それを「立ち位置」の違いだと、今井CEOは表現する。 ひとつは、富士通が提供するコンサルティングは、これまで経験からも、テクノロジーに重心が置かれたものになるのに対して、Ridgelinezはビジネスコンサルティングに重心を置くという違いだ。 もうひとつは、Ridgelinezではクライアントファーストを打ち出し、富士通をはじめとしたあらゆるベンダーに対して、フラットな関係を持っている。だが、Fujitsu Wayfindersでは、Fujitsu Uvanceで提供するエンジニアリングやアプリケーション、ミドルウェア、OS、ハードウェアを活用することが前提になるという点だ。 まさに立ち位置の違いで、ビジネスの違いが生まれることになる。 こうしてみると、Ridgelinez とFujitsu Wayfindersの関係も、まさに「出島」の関係といえそうだ。 文● 大河原克行 編集●ASCII