『GEMNIBUS vol.1』栢木琢也プロデューサー 東宝が新人クリエイターを育成する意義とは【Director’s Interview Vol.418】
オリジナルストーリーの難しさ
Q:既に実績がある監督に頼むと、ある程度カタチは見えやすいですが、若手は未知数なだけにプロデューサーとしては難しい部分がありそうですね。 栢木:人の才能を見抜くことはそんなに簡単じゃないし、「この人は才能あるね。この人は才能無いね。」と全員が一致するものでもありません。一人のプロデューサーが「この人とは絶対やった方がいい。実績は無いけどここが光る」と熱意を持って言えるのであればやるべきだし、実際そういう企画の選び方をしています。 ただ、「この人、絶対に良いと思うんです!」と言って「じゃあ一緒に開発してみよう」と進めた結果、「やっぱり無理でした…」となることもたくさんあります。最後まで完成させること自体がすごく難しいこと。でもそれを繰り返していけば、そのプロデューサーが納得いく才能に自然と出会えると思います。 Q:どういったときに「無理でした…」となってしまうのでしょうか。 栢木:GEMNIBUSはオリジナル作品に絞っていて、原作ものや脚本家を入れることはしていません。今後は、監督自身でストーリーメイクできる能力の重要性が増してくると考えていますが、皆オリジナルストーリーを作るところで苦戦します。「監督やりたいです!」と言っても「お話は作れません!」という人は意外と多い。まさに今の映画業界に足りていないものは、ストーリーをゼロから作れる人だと思います。映画業界が、オリジナル作品に挑戦できる機会を、あまりつくってこなかったために、人材がどんどん漫画や小説など出版業界に流れてしまっていることもあると思いますね。 監督だけではなく、それを一緒に作るプロデューサーも同じです。オリジナルのストーリーを作るためのプロデュース力をつけていくことは大事ですが、そこが一番苦戦するところでもあり、一番手応えを感じるところでもあります。 Q:インディーズ出身の監督はアートハウス系の映画に進むイメージがあり、最初から商業エンタメ系に行こうとする監督は日本では少ない気もします。 栢木:商業映画の監督になる道筋の見えづらさもあって、そこの可能性を自ら無くしてしまっている方が多いのかなと思います。自分の作品を作るという意味でも、インディーズの芸術的な方に行かれているのかなと。この企画が商業映画監督への道筋となって、可能性を感じてもらえるといいですね。 Q:今後のプロジェクトの展望について教えてください。 栢木:続けていくことが大事だと思うので、タイトルにvol.1とあるように、vol.2、vol.3と続けていきたいですね。今後は、よりクリエイターの魅力や個性が伝わる企画にして、尺の部分ももう少し精査していきます。また今回は、あまり意識していなかったのですが、次回は海外映画祭も視野に入れていきたいです。それは大衆性を失うということではなく、海外の人にも観てもらう土壌を作りたいから。加えて、あわよくば、この『GEMNIBUS』で、短編集という楽しみ方を観客に知ってもらいたい。今回はジャンルがバラバラでしたが、観客が4つの作品を通して楽しんでもらえる方法を研究していきたい。これらの改善点を通して、また新たな才能と出会い、その方と将来大きな作品を作りたいと思います。 Q:オムニバス作品をヒットさせるのは難しいと聞きます。 栢木:まぁ、これまで売れた作品はあまりないと言われていますね(笑)。商業でオムニバスをやるのは難しいのですが、だからこそ挑戦です。時代的に短編コンテンツは市場として大きくなっていますし、中国ではショートドラマが爆発的にヒットしています。昔よりは可能性があると思いますね。 プロデューサー:栢木琢也 2018年東宝株式会社に入社。映画調整部、経営企画部を経て現在は、開発チームにて広くエンタテインメントコンテンツのプロデュースに従事。2023年にGEMSTONE Creative Labelを立ち上げ、プロジェクト統括として若いクリエイターへの才能支援に取り組む。 取材・文: 香田史生 CINEMOREの編集部員兼ライター。映画のめざめは『グーニーズ』と『インディ・ジョーンズ 魔宮の伝説』。最近のお気に入りは、黒澤明や小津安二郎など4Kデジタルリマスターのクラシック作品。 撮影:青木一成 『GEMNIBUS vol.1』 6月28日(金)よりTOHOシネマズ 日比谷、TOHOシネマズ 梅田にて2週間限定公開 配給:TOHO NEXT Ⓒ2024 TOHO CO., LTD.
香田史生
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