抑えても「気持ちよくはない」 アマでも“絶滅危惧種”…WBC優勝右腕が語る変則の極意
アンダースローには2つのタイプ
アンダースローには、大きくわけて2つのタイプがある。「一つは、フォームに力感があってバチンと投げるタイプ」。球の勢いで抑えるタイプで、真っすぐは140キロ台半ばが求められる。もう一つは「脱力して、フォームと球の緩急で抑えるタイプ」。渡辺氏は後者で、「これだと120キロ台半ばくらいでも大丈夫です」と話す。 打者を幻惑するための技術は多岐に渡っていた。真っすぐを投げる時には、腕の振りをできるだけ遅いように見せた。「本当にゆっくり振ってしまったらスピードが出ないので、あくまでそう見せられるかどうかです」。逆に緩いカーブを投げる時は、腕の振りが速く見えるように振る。「僕の場合はあえてすっぽ抜けのように投げて、本塁方向に向かって行ってくれれば良い、くらいの感じで投げていました」。 腕の振りと実際のボールとのギャップで打者を抑えるということのようだが、実は本人は「投げていて気持ちよくはない」のだという。「力を込めてバチンと投げたほうが気持ちいいんですけど、抑えられるかどうかは別の話。自分が気持ち悪いほうが、抑えられるんです。気持ち良く自己満足で投げているうちは、アンダースローとしてはまだまだかもしれません。僕も大学から社会人ではどっちつかずでした。大学では下から投げていればそれだけで抑えられたけど、社会人のトップクラスはそうはいかない。それで考えるようになって、行きついたのは脱力するフォームだったんです」。 聞けば聞くほど奥の深いアンダースローの世界。「絶滅」させるにはあまりに惜しい。指導者となった渡辺氏は、いつの日か自身を超えるアンダースローを世に送り出す日が来ることを、願ってやまない。
伊村弘真 / Hiromasa Imura