産直通販サイト、小売業者介さず農家の実入り多く…「適正価格で買ってもらえれば持続可能な農業に」
農産物直売所も売り上げ伸ばす
ネット直販が広がる一方、全国各地には農産物直売所が多く存在し、地産地消の身近な拠点として売り上げを伸ばしている。消費されたお金は、農家など地域で循環することにもつながる。
「近くのスーパーより少し遠くても、安心感と新鮮さでお得感がある」
今月上旬、多くの客でにぎわうJA熊本うきの直売店「サンサンうきっ子宇城彩館」(熊本県宇城市)を訪れた熊本県甲佐町の主婦(38)は、鮮やかに色づいたミカンを購入し、笑顔を見せた。
店内に並ぶのは、宇城地域の農家が持ち込んだ葉物野菜やかんきつ類のほか総菜など。車で20分かけて訪れるといい、「手間暇かけて生産してくれる農家に農業を長く続けてほしいし、感謝の気持ちで利用しています」と話す。
同館は収穫されたばかりの農作物の新鮮さを特長に売り上げを伸ばし、昨年度は16億円超で過去最高を記録。農薬の履歴が確認できない農作物は販売せず、「安全安心」を掲げる。
平井裕人店長(38)は「農家と消費者をつなぐ場所として、農業の重要性を理解してもらえる施設にしていく。食料安全保障のためにも、農家の安定的な所得確保につなげたい」と語った。
産直農産品の市場規模、拡大の予測
農林水産省によると、全国の直売所は約2万2000か所(2022年度)ある。年間総売り上げは増加傾向で、22年度は1兆879億円と9年前と比べ1・2倍に拡大。矢野経済研究所(東京)によると、直売所や宅配サービスを含む全体の産直農産品の22年の市場規模は3兆3000億円に上り、27年には3兆7000億円に拡大すると予測している。
千葉大の桜井清一教授(農産物流通論)は「消費者が、直売所を通して国産や地元産の農産物を買い支えることで、地域の離農防止や農地の保全にもつながる」と指摘する。
一方、「都市農山漁村交流活性化機構」(東京)によると、直売所では農家の減少や高齢化に伴い、出品される農産物や収益の減少が課題となっている。
同機構は今月21、22日、大分県別府市で「全国農林水産物直売サミット」を開催し、全国の直売所の運営事業者や農家ら約260人が出席した。会合では、気候変動への対応や品質に見合った価格設定などについて意見を交わした。特に商品不足は深刻で、午前中に売り切れてしまい客離れにつながるケースが見られており、近年は直売所間での商品の融通などが注目を集めているという。
同機構の任意組織「全国農産物直売ネットワーク」の事務局長、森岡亜紀さん(55)は「農家の生産物を近くの消費者に届ける直売所は食料安全保障の根幹を担っている。作り手が減り続ける中、直売所間のネットワークを強化し、連携を深めたい」と話している。