前代未聞の戦力外→再入団の真相 大事件の裏で「内容も聞かず」に交わした契約【インタビュー】
秋野央樹が明かした長崎との再契約「シモさんがなるかもって話を聞いて」
新スタジアム開業に沸くV・ファーレン長崎に、並々ならぬ思いで戦う男がいる。主将のMF秋野央樹は大怪我から復活し、中盤を支配する姿はまさにチームの心臓だ。しかし、昨オフには契約満了を経験。前代未聞の再契約に至った舞台裏を明かした。(取材・文=FOOTBALL ZONE編集部・工藤慶大/全3回の2回目) 【実際の写真】「想像していなかった」新スタジアムに広がった美しい景色 ◇ ◇ ◇ 柏レイソル、湘南ベルマーレを経て2019年7月に長崎に加入した秋野。年代別の日本代表にも選ばれた実績を引っさげ、2020年には40試合に出場するなど活躍した。しかし、2021年に右足首を痛め、約2年間に渡って苦しんだ。昨年11月にはファビオ・カリーレ監督の構想外となり、契約満了が発表されていた。 「すぐオファー来るだろうなという感じもあったんですけど、2年間やっていないのがすごくネックになっていて。なかなかクラブがなく、エージェントからトライアウトを受けてくれと言われて。最初それ聞いた時に、『いや、待ってよ』って感じだったんですけど……。 ただ、そうなったからには、自分も変なプライドを捨てて、プレーできるところを見せないといけないと思いました。それで行って、別に何か自分の評価が下がることもないだろうし。そこはもう腹くくって、やるからにはちゃんとやろうと。変なプライドはもう捨てて臨みました」 独特な雰囲気だったというトライアウト。名前も顔も知らない選手たちと必死にボールを追いかけた。「焦りはだいぶありました。家族の生活を自分が養っていくという立場で、これから子どももいるなかでどうやって支えよう」。そんな思いでオファーを待ったが、そのときに古巣で大事件が発生していたのだ。 カリーレ監督が長崎との契約を一方的に破棄し、ブラジルに帰国してサントスFCの新監督に就任。柏ユース時代の秋野が指導を受けた下平隆宏コーチが暫定で指揮を執ることが決まった。「シモさんがなるかもって話を聞いて。もう1回長崎でやりたいと」。代理人に打ち明けると、話は速やかに進んだという。 そんななか、ほかのクラブからもオファーが届いていた。下平氏が長崎を率いることが正式に決まるまでは再契約できないが、もう1つの期限もある。「それまでに長崎側がまとまらなかったら、その違うチームに行きますって話はしました」。復帰は消滅するかと思われたが、期限の当日にサインに辿り着いた。 「契約の内容とかも聞かずに、長崎に行きますという話をしました」 移籍してくるまで、縁もゆかりもなかった長崎の地。にもかかわらず帰ってきたのは、J1昇格という約束があるから。「ファン、サポーターに本当に辛い思いをさせてしまった。そういう人たちのためにもう1回このクラブで。もうこのチャンスは2度とないと思う」。前代未聞のストーリーにはまだ続きがある。 [PROFILE] 秋野央樹(あきの・ひろき)/1994年10月8日生まれ、千葉県印西市出身。柏レイソル―湘南ベルマーレ―V・ファーレン長崎。柏のアカデミーで頭角を現し、年代別の日本代表でも活躍した。当時の絆は今も強く、同じくキャプテンを務める横浜F・マリノスのMF喜田拓也は「すごく刺激をもらっている存在」。
FOOTBALL ZONE編集部・工藤慶大 / Keita Kudo