娘シャマラン処女作 映画『ザ・ウォッチャーズ』 監視されているのは彼らか、我々か?
盛りだくさんの基本的なホラーエレメント
『ザ・ウォッチャーズ』に関して、イシャナは「ファンタジーとスリラーの要素を組み合わせた」と語るとともに、シャルロット・ゲンスブールとウィレム・デフォーが出演した鬼才ラース・フォン・トリアー監督の『アンチクライスト』(2009)の「自然と深くつながって描かれるダークな質感に刺激を受けた」とその影響を述べている。 その影響を見事に撮影したのがA24の『LAMB/ラム』(2021)を担当したイーライ・アレソン。スクリーンを観れば、なるほどと納得してくれる映像となっている。 そのほか、ギレルモ・デル・トロ監督の『パンズ・ラビリンス』(2007)、アニヤ・テイラー=ジョイ主演ロバート・エガース監督による『ウィッチ』(2015)も参考にしたそうだが、これらの作品を知る人にとっては、今作『ザ・ウォッチャーズ』の質感が見えてくるだろう。 今作にはファンタジーとホラーのお約束的な要素、過去作へのオマージュが、これでもかとぶち込まれている。 先に挙げた序盤のあらすじだけでも、アルフレッド・ヒッチコックの『鳥』(1963)よろしく鳥の群れの恐怖は、容易に思い起こさせるし、ペットショップ店員が鳥かごを持って、牢屋のように映るアイルランドの針葉樹が茂った森に迷い込み、得体の知れない”何か”に監視される小屋に閉じ込められる流れは、とてもわかりやすいメタファーだ。 登場人物だってそうだ。迷い込み脱出を試みる主人公、どこか怪しげで知識豊富な老婆、きっとピンチを招く若い女性、大人しいのに、いきなりパニクって問題を起こしそうな若い男性。RPGでいう勇者、戦士、魔法使い、僧侶ぐらいのホラーのテンプレパーティだ。 そのほか、細かいことを挙げたらキリがないが、これだけ多くの要素をよくまとめたなと思うほど、本作はホラー食材の闇鍋状態だ。優秀なスタッフの手腕が遺憾なく発揮されているのだろう。
都市伝説系ホラームービー
わかりやすいといった一方で、作品の中に多く散りばめられた、いわば都市伝説的な要素を知らない、興味がないと、理解が難しいかも知れない。 映画をより理解するための都市伝説をここに残しておきたい。 森について 人を寄せ付けない森深くには、未開の集落があると噂されている。たとえば富士の樹海。迷い込んだ人々が集まり、ときにはカルト教団、カニバリズム的な集団を結成されているのではないかと言われている。 鳥について 世界各国の神話から、人を導くもの、神の化身とされている。鳩の帰巣本能を利用した伝書鳩は、しばしば海難事故や遭難で戻るべき道の方向を知るために利用された。 神・悪魔・妖精について 人智を超えた存在。多くは宙に浮き、翼を持った姿で描かれる。人類の前に地球にいた者ともされている。これらは同一視されることもあり、実は古代の地球に降り立った宇宙人だったのではないか?とも言われている。 地底人について 現代人の前に、地球上で繁栄していた存在が核戦争の末、地上を追われ地下生活を余儀なくされたと言われている。 その根拠として、トルコの世界遺産カッパドキアの地下都市などが挙げられている。またナチスドイツは、幻の地底王国の技術力を求め、熱心に南極大陸を探索したとも言われている。 巨人について 神・悪魔・妖精同様に、古代から世界各国の神話に登場する巨大な人間。その足跡、人骨と呼ばれるものが、しばしば発見されるが、都市伝説の域をでない。近年、ピラミッドの建設が現代技術でも不可能なこと、奈良・富雄丸山古墳で出土された長さ2.37メートル、幅6センチの蛇行剣の存在が、巨人の存在を示唆しているのでは?とも言われている。 ドッペルゲンガーについて 自分自身と全く同じ姿をした者がもうひとり存在しているというもので、二重に歩む者を意味するドイツ語に由来する。自分のドッペルゲンガーに出会うと死ぬとも言われており、実際にアメリカ合衆国第16代大統領、エイブラハム・リンカーン、小説家・芥川龍之介が自身のドッペルゲンガーを見たと言う記録も残されている。 都市伝説のように、真実かどうかわからないものは、人々の興味を引くし、また恐怖のきっかけにもなる。