三菱電機「空調装置」、ドイツの鉄道なぜ大量採用? 「革新的」技術と業界内での立ち位置が強みに
■車両用空調装置に商機 空調装置のほか、主電動機、インバーター、ブレーキ制御装置、運行管理システムなど、鉄道車両に搭載されている電気機器類を製造する国内メーカーは三菱電機、日立製作所、東芝の重電3社が大手。さらに東洋電機製造や日本信号、京三製作所などの中堅メーカーもしのぎを削る。その筆頭が三菱電機である。 鉄道車両メーカー首位の日立は、車両と電機品のいずれも自社で製造しており、日立製の車両は電機品も日立製というケースが多い。一方、川崎重工業などほかの車両メーカーは車両組み立てが主体で、電機品の大半は他社からの調達だ。そこで頼りになるのが三菱電機。つまり同社は自身が車両メーカーではないからこそ、多くの車両メーカーと幅広く付き合うことができる。
海外に目を向けると、シーメンスとアルストムの両社は電機品の多くを自前で製造している。したがって、全般的には三菱電機が食い込む余地は小さい。 しかし、ゼロではない。実は両社は空調装置を造っていないのだ。これが2つ目の理由である。欧州でも近年の気温上昇は深刻な問題となっている。欧州では空調装置未搭載の古い車両がまだ多く、新型車両への切り換え時には搭載が必至だ。そのため、空調装置に関しては三菱電機にチャンスがある。
たとえば、世界最古の地下鉄として有名なロンドン地下鉄がその代表例である。2010年から2015年にかけてアルストム製の新型車両が導入されたが、その車両は三菱電機製の空調装置を搭載した。 ■空調以外にも「推し技術」 今回のイノトランスで、三菱電機が強調していた「推し技術」はほかにもあった。鉄道業界向けの次世代蓄電モジュールとバッテリーマネジメントシステムである。 列車のブレーキ時に発生する回生エネルギーの余剰電力は、付近を走る列車に供給して有効利用することで、鉄道における消費エネルギーを削減することができる。しかし、近くを走行している列車がいなかったり、近くを走行している列車だけでは消費しきれなかったりという場合、余剰回生電力を無駄に捨ててしまうことになる。
そこで、三菱電機は新たに開発したデジタル基盤を活用して余剰回生電力が発生しやすい位置を見える化することで、余剰回生電力を溜め込む次世代蓄電モジュールを適切な位置に配置し、駅の電気設備に直接供給するという仕組みを整えた。また、列車走行位置や変電所設備などのデータも収集し、省エネ運転やピーク電力抑制の実現も狙う。 レールの上を車両が走るという鉄道の技術は150年以上前に生まれたもので、基本的な原理は今も変わらないが、その運行を支える技術は日々進化している。
大坂 直樹 :東洋経済 記者