三菱電機「空調装置」、ドイツの鉄道なぜ大量採用? 「革新的」技術と業界内での立ち位置が強みに
なぜ、シーメンスは三菱電機の製品を採用したのだろうか。その理由の1つは新型車両のコンセプトにある。この車両にはデジタル技術の活用による消費電力や保守費用の抑制といった革新技術がふんだんに取り入れられる。そのため、空調装置にも革新的な技術の採用が求められた。 一般的な鉄道車両同様、この車両も空調装置の設置場所は屋根の上である。そのため、空調装置の形状も屋根の上に置いても空気抵抗がないように平たい形となっている。
鉄道用空調装置の課題は環境負荷が大きいことだ。かつてはクロロフルオロカーボンなどのフロンが空調装置の冷媒として広く使われていた。しかし、オゾン層を破壊する塩素分子を放出することから1996年に生産禁止となり、現在はR407C、R134aなどの代替フロンが鉄道車両用空調装置の冷媒として広く使用されている。しかし、これらはオゾン層破壊効果こそないものの、地球温暖化係数が高いため排出抑制が求められている。
そこで三菱電機が初めて採用したのがプロパンを原料としたR290という冷媒である。R290もオゾン破壊効果がゼロで、同社によれば地球温暖化係数はR407C、R134aなどの代替フロンと比べると約8万分の1という低レベルだという。 一方で、現行の代替フロンが不燃性であるのに対し、R290は可燃性であり、使用に際しては十分な安全対策が必要だ。そのため、「通常、空調装置の冷媒が漏れるのはロウ付け部分からだが、空調装置内の室内機部分にはいっさいロウ付けをしていない」(三菱電機広報)。従って「万が一、冷媒が漏れた場合も室外機部分からで、室外機部分は空調装置の外の外気に冷媒が放出される。車内に冷媒が漏洩しづらいという点で、リスクが最小化されている」(同)。また、小型冷凍サイクルを複数搭載することで1回路当たりの冷媒充填を減らすなどの仕組みも取り入れた。
R290の活用は空調装置がもたらす環境負荷を劇的に改善させるだけに、鉄道車両への活用について多くの企業が注目している。たとえば、ドイツの建設機械メーカー・リープヘルはスイスの中堅鉄道メーカー・シュタッドラーが製造するフィンランド向け車両に、また、アメリカの鉄道機器メーカー・ワブテックはアルストムが製造するノルウェー向け車両に、それぞれR290を使った空調装置を供給すると発表している。 一方で日本においては、三菱電機によれば「日本国内でR290を使用した鉄道車両用空調装置が採用された事例はない」とのことで、将来、日本でも同タイプの空調装置が登場する可能性もある。