「練習から全力でないと出られない」的確な補強が生んだチーム内競争<ヴィッセル神戸連覇の賛歌・上>
ヴィッセル神戸のチーム編成や強化を担う永井秀樹スポーツダイレクター(SD)の脳裏には、今も鮮明な記憶がある。東京Vユース監督だった時、対戦した川崎U―18(18歳以下)に突出した選手がいた。「トップ下もでき、シュートもうまい万能型。ずば抜けていた」。FW宮代大聖。今季、川崎から加入した24歳のアタッカーは「期待通り」(永井SD)に連覇の立役者となった。
J1初優勝を飾った昨季、いずれも欧州と日本代表でプレー経験があるDF酒井、MF山口が屋台骨を支え、FW武藤が10得点、FW大迫は22得点を挙げた。今季、最大の懸念は「大迫が抑えられた時に、どうするか」。
不動のエースに対するマークは当然厳しさを増すことが予想された。「ビッグ4」とも呼ばれた選手が不在、不振でも戦力を落とさず戦い抜くには、的確な補強こそが連覇の鍵だった。
ただ、交渉は簡単ではない。絶対的な存在がいるクラブへの移籍は、レギュラーの確約がなく、不慣れなポジションに回される可能性もある。それでも宮代は神戸を選んだ。「日本のトップチームで自分がより成長できる気持ちが強かった」と宮代。リーグ戦終盤には「自分が(優勝の)キーだと思っている」と言い切るまでになり、大迫と同じ11得点をたたき出した。
連覇を見据えた補強はほかにもある。夏場に酒井、山口がけがで長期離脱。致命傷となりうる穴を、新戦力のDF広瀬、MF井手口が埋めた。9~10月、中2~4日のペースで戦った7連戦を6勝1分けで乗り切り、吉田監督は「(全員が)チームとして同じ方向を向いている」と語った。
高いレベルでの内部競争を指揮官は望み、選手たちは妥協なく要求し合う。永井SDは「ふがいない失点には『ありえねえだろ』と言い合う。言われた方もちゃんと受け止め、他の選手は(プレーで)カバーしようとする。とても良いやり取り」と目を細める。
実績十分の武藤が「常に練習から全力でやらないと(試合に)出られない」という。かつて浮き沈みが激しかったクラブは、腰を据えた強化が実り、充実の時を迎えている。
◇ サッカーのJ1神戸がリーグ連覇を達成した。強さの背景と次なる挑戦に迫る。