GT500に次なる外国人スターはいつ現れるのか。欧州GT3界にも“掘り出し物”がたくさん?:英国人ジャーナリスト”ジェイミー”の日本レース探訪記
トヨタとホンダが2024年の体制発表を済ませた今、スーパーGT・GT500参戦メーカーの中でドライバーラインアップを発表していないのは日産だけとなりました。日産系チーム総監督の松村基宏氏は最終戦もてぎでのmotorsport.comのインタビューに対し、ラインアップ変更の可能性を否定していませんでしたし、ニスモフェスティバル翌日にGT500車両をドライブしたドライバーの顔ぶれを見ても、日産/NISMOが様々な選択肢を検討しているのは間違いなさそうです。 【動画】日本人F1ドライバー角田裕毅から新年のご挨拶! 参戦4年目に向けて「トップドライバーとしての価値を証明したい」と意気込む ご存知の方も多いかと思いますが、日産は毎年ニスモフェスティバル翌日の富士スピードウェイで、翌年のドライバーオーディションを兼ねたテスト走行を実施するのが恒例となっています。2023年12月のテストでは、サッシャ・フェネストラズ、名取鉄平、三宅淳詞、ジョアオ・パオロ・デ・オリベイラ、そしてアレッシオ・ピカリエッロの5名が参加したようです。その中で名取とピカリエッロは2日間走行したと見られています。 日産陣営は佐々木大樹と平手晃平のシートが空くのではと噂されていますが、フェネストラズはフォーミュラEとスーパーGTの日程重複が多すぎることから、2024年のレギュラードライバー候補には入っていないと言われています。またピカリエッロも候補から外れたことが明らかとなっており、名取、三宅、デ・オリベイラが昇格の主な候補だと言えます。 ピカリエッロはポルシェに残留する事になりましたが、彼が日産GT500の候補に挙がっていたということはとても興味深いです。 30歳のベルギー人ドライバーであるピカリエッロは、キャリア初期はシングルシーターで好成績を収め、2013年にはADACフォーメル・マスターズで、現在フォーミュラEで活躍するマキシミリアン・ギュンターを抑えてチャンピオンを獲得しています。しかし資金不足もありF1への道からは早々に外れてしまい、以降は主にGTEやGT3のカテゴリーでレースをしています。 2020年からはポルシェのドライバーとなり、完全なファクトリー契約ではないものの、もっぱらポルシェをドライブしているピカリエッロ。それ以前はアウディに所属しており、2019年にはAudi Team HitotsuyamaからスーパーGTのGT300クラスで2レースに出走した経験があります。そのため彼はスーパーGTを全く知らないわけではありませんし、今年はGTワールドチャレンジアジアに参戦して日本のサーキットでの経験も積みました。 もしピカリエッロが日産と契約して2024年のGT500に参戦していれば、ヨーロッパで活躍するGT3ドライバーと、近年日本以外のコースで走ったことがない日本のプロドライバー達の実力を比較するという点でも非常に興味深いものになったと思います。 しかしそれ以上に重要だと言えるのは、もしピカリエッロの参戦が実現していれば、ヨーロッパのGT3レースには日本のメーカーが欲しがるような才能あるドライバーがたくさんいるということが明らかになっていたはずだということです。 ここ最近WECやIMSAでトレンドになっているのが、GTを主戦場としていたドライバー達の、ハイパーカーやGTPといったプロトタイプカテゴリーでの活躍です。例えば、フェラーリのアレッサンドロ・ピエール・グイディやジェームス・カラド、ポルシェのローレンス・ヴァンスールやケビン・エストレらがそれにあたります。 多くのドライバーは、WECやIMSAのトップカテゴリーで使われるLMH車両やLMDh車両を「大きく、パワフルなGT3マシン」のようだと表現します。かつてのLMP1車両の方がハイテクかつ軽く、洗練されたマシンだった一方で、LMHやLMDhはコストカットなどの影響もあり、よりGTマシンに近いものになっているようです。 もちろん、GT500車両もLMHやLMDhとは異なっています。GT500の方が軽く、ハイグリップなタイヤを使っています。ただ基本的には、今年のWECやIMSAで分かったように、トップクラスのドライバーはパワーやグリップのあるマシンに比較的すぐに適応できます。したがってピカリエッロのような熟練したGT3ドライバーであれば、十分なマイレージさえ稼げればGT500に苦労することはなかっただろうと考えられます。 今回、ピカリエッロのスーパーGT参戦は叶わない見込みですが、日本のファンからあまり知られていない外国人ドライバーの起用を模索した日産を評価したいですし、2024年のオーディションテストでも同じような試みを期待しています。 このような流れが定着すれば、多くのヨーロッパのドライバーがスーパーGT参戦を真剣に検討する事になるでしょう。特にハイパーカーは隆盛のピークに達しようとしており、現時点でメーカーと契約していないドライバーは、今後ハイパーカーのシートを得ることは簡単ではないはずです。 ジェンソン・バトンのようなF1ワールドチャンピオンがやってくればそれは素晴らしいことですが、実際問題そういったビッグネームが来ることはそうそうありません。ただ、例え日本での知名度がないドライバーでも、日本でスターになれないわけではありません。言い換えるならば、20年前にロニー・クインタレッリのことを知っていた日本人がどれだけいたでしょうか? 2024年は日産の新たな外国人スター候補がグリッドにつくことはないかもしれませんが、そのプロセスは確実に始まっているのです。
Jamie Klein
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