トランスジェンダーの“吹き替え”どうする?…報道局員が考える「多様性」の伝え方
■“吹き替え”するならナレーターは女性?男性?
◯ファシリテーター・白川大介: そうでしたね。その時私は、大原則としては字幕の方がいいと回答しました。それは、その時点で自分として“正解”を思いつかなかったから。吹き替えた方が視聴者に伝わりやすいというのは分かっているんですけれども、これ正解が無いなと思って。本人の意思を尊重するなら、字幕にするしか現状、方法が無いんじゃないかなと思って、そう答えました。 で、セカンドベストというか、字幕以外でマシな選択肢は何なのか。私はゲイで、トランスジェンダー当事者の思いの深い部分は自分ではわからないので、谷生さんにもお聞きしてみたんです。そうしたら谷生さんは、原則として今女性として生きている人であれば、女性の声。今男性として生きている人であれば、男性の声。本人が望んでいる性別の声で吹き替えることが望ましいだろうと。
一方で谷生さんからは「例えばトランスジェンダー女性の声を吹き替えるのに、男性のナレーターさんが真似してやってしまうと、“男性の声帯を持っている人が無理して出している女性の声”という印象を与えかねず、結果として当事者を攻撃することにもなりかねないので、そこは絶対に避けた方が良い。やっぱり字幕が一番いいんじゃないか」みたいな返答もあったので、それも合わせて末岡さんと近野さんにはお戻しをしました。それで結局、最終的な結論が出たのが放送日の朝でしたっけ? ◯国際部デスク・近野宏明: 昼前ですね。every.からの11時20分のメールで。「今回はテーマが性別適合ケアで、取材対象者の希望も確認しているということなので、主人公の方は吹き替えなし。でもその代わり、英語のコメントをフォローする字幕については、初見で必ず内容がわかるように工夫をしてください」と。字幕の文字数を極力少なくするとか、難しい言葉を入れ込まないとか、そういうお願いが来ました。さらにその後の調整で、主人公ではないトランスジェンダーの方も吹き替えなしとなりました。 ◯ファシリテーター・白川大介: この結論は、「分かりやすく伝える」ことに一生懸命になっている、番組側の皆さんにも納得できるものだったんですか? ◯news every.プロデューサー・片田やよい: 実はこの企画の放送は16時台を予定していたんですが、11時を過ぎてしまって、いいかげんに決めなきゃいけないタイミングが来ていたんです。その中で、じゃあやっぱり吹き替えにするんだと言っても、男性の声で女性っぽく吹き替えるのか、女性のナレーターさんにお願いするのかというところも、まだ全く答えが出ていない状態でした。 それで、今ある選択肢の中で取りうるのは、「字幕を分かりやすくする」っていうことなんだろうねと。ただ「トランスジェンダーの企画では常に吹き替えはしません」とは決めきれないので、まあ今回は議論の結果、企画をきちんと放送するためにこれで走るけれども、今後も都度、議論していった方がいいですよね、みたいな感じでした。