「ロックごっこ」の延長を、まだずっとやってるだけーー走り続けて33年、稲葉浩志が語るB'z、そしてコロナ禍の葛藤
「FRIENDS」シリーズの代名詞的な曲に、「いつかのメリークリスマス」がある。だが、稲葉にとっては歌いこなすのがとても難しい存在だったという。 「とにかく苦手な気持ちがずっとありました。自分の声のいいところを出し切れないというか。『FRIENDS III』の映像特典で歌い直したり、『LIVE FRIENDS』で歌ったりして、今は初めてスッと歌えてる状況で。それは年齢のせいかもしれないし、自分の声質が変わってきたせいかもしれません」 編集部からの「ようやく『いつかのメリークリスマス』と “FRIENDS”になった感じでしょうか?」という狙った問いに、稲葉が「その通りです」と即答し、取材現場は笑いに包まれた。彼の茶目っ気が顔を出す。 ただ、「FRIENDS」というシンプルな言葉の持つ意味合いについて聞くと、再び思索の海に沈んだ。言葉を選んでいるのが伝わってくる。歌詞を書くときもこんな表情なのかもしれない。 「個人と個人が、恋愛関係以外にも、非常に強いつながりを持ってる関係のことを『FRIENDS』と想定して歌詞を書いていて。でも、強いつながりだと思ってたけれど、そんなことはなかった、って思ってしまうようなこともあったと思うんですね、この2年ぐらいで。そういう脆さが露呈するような時期にありますよね」
11月に日本武道館で開催された「松本隆 作詞活動50周年記念 オフィシャル・プロジェクト~ 風街オデッセイ2021」の初日の追加出演者の発表は大きな話題を呼んだ。B'zの出演が突如発表されたからだ。 「『風街オデッセイ』は、松本さんとふたりで行ってパーッと演奏して帰ったみたいな感じ。あの後、冗談めいて話したんですけど、『この形態だったら、どこでもパッと行って演奏して帰ってこれる』って(笑)。今まではずっと、レコーディングとライブの繰り返しだったんですよ。コロナの影響で、それが一回途切れて、逆に実現できたことなんです。まさかそこで自分たちのフットワークの軽さを発見するとは思わなかった」 30周年をとうに越えて発見された、B'zのフットワークの軽さ。稀代のユニットには、さらなる進化が待っているのかもしれない。 「たぶん、ギター1本と、僕はまあ手ぶらで、全国を回るということですかね。地元のバンドの皆さんと演奏する(笑)。経費もかからないし(笑)。『B'zの歌とギターが、このバンドの演奏の中に入ったら?』っていう楽しみも出てくると思うんですよ。この短期間で、本当にいろんなミュージシャンの方と共演させてもらって、感じたことでもあります。できそうなタイミングがあれば、やっても面白いかもしれないですね」 --- 稲葉浩志(いなば・こうし) 1964年、岡山県生まれ。ボーカリスト・作詞家・作曲家・シンガーソングライター。88年結成の音楽ユニット・B'zのメンバー。ソロ活動時は作曲に加え、レコーディング等でのギター、アレンジ、プロデュース等も担当。今月、B'zのコンセプト・アルバム「FRIENDS」シリーズ25年ぶりの新作となる「FRIENDS III」をリリースしたばかり。今月24日には配信ライブ「B’z presents LIVE FRIENDS」を控える。 (取材・文/宗像明将)