「人と話さない」と“記憶系”の働きが鈍くなる脅威 脳を活性化させるためにいますぐできる対策は
■スマホのせいで記憶力が衰える 脳の仕組みというのは、基本的に3段階になっています。 まず、第1段階が「入力系」です。外部の情報を取り入れる段階です。「視覚系」と「聴覚系」を働かせて、目から視覚情報、耳から聴覚情報をインプットします。それを「伝達系」により、「思考系」と「理解系」に運びます。 私はこの「思考系」と「理解系」を合わせて、「ワーキングメモリ」と称しています。ワーキングメモリによって情報が意味づけされ、整理されるのが第2段階です。
そして、最後の第3段階が「記憶系」です。ワーキングメモリで処理された情報を、「記憶系」の海馬の働きによって、脳に定着させます。 ところが最近は、第3段階の「記憶」のところが弱くなっている人が多いように思います。先ほど説明した会話の少ない人の例は、まさにその典型でしょう。 そこまでの状況ではなくても、今の時代は「記憶系」が働きにくいようです。とくに悪影響を及ぼしているのが、スマホです。 スマホからは、つねに大量の情報が流れています。YouTubeやLine、TikTokなど、実に膨大な情報があふれ出しています。
それを漫然と見ているだけだと、「入力系」と「ワーキングメモリ」までは情報は行きますが、「記憶系」までにはたどり着かないまま、情報が素通りして行ってしまいます。まったく記憶に残らないまま、どんどん忘れていくのです。 なぜかというと、そこに記憶をつなぎとめる「言葉」が介在しないからです。 電車に乗っていると、誰もがスマホだけを無言で見つめています。あれだけ大勢の人がいるのに、周囲のことはまったく気にもとめません。スマホの中で繰り広げられる世界だけに、一言もしゃべらずに没頭しているのです。
■脳は眠っている状態 もし彼らの脳内を診断したら、きっとワーキングメモリの「思考系」と「理解系」以外の脳はほとんど働いていないはずです。まさに眠っているような状態ではないでしょうか。 ここで、脳を活性化させることができるのが、「言葉」です。 本来ならスマホの情報をもとに、周囲の人と感想を言い合ったり、雑談すれば記憶に結び付くわけです。でも、電車の中ではそれもできません。 そこで、ひとり言の出番です。スマホを見ながら何かしらひとり言をつぶやいてみるのです。声に出すのがはばかられるのであれば、頭の中で言うのでも構いません。
海馬は、言葉に刺激されます。すると「記憶系」が働き出し、脳がようやく働き出すことができるはずです。
加藤 俊徳 :医学博士/「脳の学校」代表