佐久間宣行に聞く、地上波で流せないコント番組『インシデンツ』の挑戦。「自分が最前線の視聴者」でいる意味
「笑い」はもっと猥雑でもいいんじゃないか
―作品に関連して聞きたかったのですが、『インシデンツ』の元になっているという2015年のコントドラマ『SICKS ~みんながみんな、何かの病気~』も当時反響があったかと思います。コント番組だけど、社会風刺的なところがあったのも印象に残っています。 佐久間:2015年の現実をちょっと過剰にしてつくったんですけど、いま見ても全然古びていないのにびっくりしますよね。あそこで描かれていることがそのあと現実でも起きていて。 『SICKS』は「現代病」というテーマだったので、結果的に現代を風刺するコント番組になるだろうなと思ってつくっていたんですが、『インシデンツ』はもうちょっと娯楽に振っているかもしれないですね。 特に1作目の1話は娯楽に振ったつくりにしておいて、4話や5話で徐々に全貌がわかって事件に巻き込まれていくという構図にした方が面白いかなと思っていました。 ―『インシデンツ』の1作目は、架空の国家「NEPPON」が軍事国家になって笑いを規制していくというストーリーで、同じく社会風刺的な一面も感じました。そういうことをコント番組のなかでやりたいという気持ちも佐久間さんのなかであったのでしょうか? 佐久間:それはちょっとあって、減っちゃっているんだけど、笑いって世の中の「それってどうなの」っていうものをちゃんと風刺する目的があっていいなと思うんです。でも、どんどん笑いと社会批評と社会風刺が離れていっている感じがするんですよね。時事ネタ扱いぐらいにしかならない。 もうちょっといまの時代で笑いにできることはあるんじゃないかなと思っていて、みんながかっこいいと思っているけどそれって本当はダサいんじゃないかというのを笑いで伝えることを意識したというか、ちょっと心の片隅にありました。 ―笑いと社会批評、社会風刺が離れていっている感じがするというのは、どういうことでしょうか。 佐久間:なんていったらいいんだろうな……賞レースとかも含めて、全体的に笑いがテクニックとか、そっちのものにどんどんなっている感じがするというか、お笑いがお笑いマニアとそれを好きなお笑いファンのためのものになっている感じがするんですが、もっと猥雑でもいいんじゃないかなと思います。 ―なるほど。最後に、『インシデンツ』は1話だけではなかなかストーリーの全貌がわからない構造になっていて、すごくつくり込まれたコントドラマです。こうしたコンテンツは配信だからこそできる、というような感覚はありますか? 佐久間:そうですね。シリーズもののコントでもあり、ドラマとしても軸があって成立しているというものをいまやるなら、やっぱり配信になるんだろうなとは感じます。地上波でもやりたい気持ちはもちろんあるんですが、配信の方が一気に見てもらえたり、あとで追いつくこともしてもらいやすいですから。 今回の『インシデンツ』は、1話の中にちょっと登場するテロップが3~4話で全貌がわかってから見返してやっと意味がわかる、みたいなことをやっています。それは気軽に見返すことができる配信だからこそやれているところはあるんですよね。なので、視聴者の方には、そういうところも含めて楽しんでもらえたらと思っています。
インタビュー・テキスト by 生田綾、撮影 by 寺内暁