佐久間宣行に聞く、地上波で流せないコント番組『インシデンツ』の挑戦。「自分が最前線の視聴者」でいる意味
意識しているのは自分が「最前線の視聴者」でいること
―以前インタビューで「この表現は笑いと傷つきどっちが多いかということを考え続けている」という話をしていて、そういうことをすごく考えながら線引きをしていってるのかなと思いました。 佐久間:そうですね。その線引きはすごく考えてますし、それがわかっていないスタッフには結構ちゃんと説明します。ここの部分のこの言い方だと、この出演者は意図していないけれどこう受け取られてしまう可能性があるから、ここの部分は編集でカットするか、注釈をつけるようにしようとか。 近い話で最近あったのは、『あちこちオードリー』であるアイドルが別のアイドルのことを例え話に出して、そこはウケてるんですけど、そのあとにアイドルの方が「さっきの言い方だと誤解されて悪く言ってしまってるようになるかも」と言っていて。最初の編集ではその部分がカットされていて、ウケたところだけで終わっていたんですよ。ディレクターに、ウケた部分を使うなら「さっきの表現は言いすぎましたかね」って言ってるところまで使ってあげないと、こっちとしてはフェアな編集じゃないんじゃないかという話をしたんですが、そういうことを毎日やっている感じです。 ―「フェアな編集」というのは、大事な視点ですよね。その線引きはどうやって磨いているんでしょうか。 佐久間:自分が一番最前線の視聴者でいることというか……作り手の視点だけでやってしまうとだいたい歪んでくるなと思います。よくそんな時間ありますねって言われながらも僕がいまもいろんなコンテンツを見ているのは、その部分の方が大事なんじゃないかなと思っているからなんですよね。 ―いま世の中に出ている数あるコンテンツから吸収していくというか。 佐久間:もちろんニュースもそうですけど、いまこういう表現をこう受け取る人がいるとか、そういう肌感は視聴者としての自分がなんとなくでもちゃんと持っておかないと、大きな事故を起こしてしまうんじゃないかと思いますね。 ―佐久間さんがそこをすごく意識されているのはなぜなのか、というのも聞きたいです。 佐久間:あんまり「作り手」という意識が自分自身そんなにないんですよね。本当にたまたまつくっているだけというか。30代からだいたい20年ちょっとのあいだ作り手をやっているだけで、その前後はずっと普通に視聴者というか、見ている人というイメージなので、完全に自分のことをプロフェッショナルだと思っていないからかもしれないですね。 僕はどちらかというとソフトの受け手である自分の方が先に来てそこからつくるタイプで、本当に言い方を気をつけないといけないんですけど、芸能界はあまり得意じゃないですし。芸能人とか芸人とすら全然お酒を飲まないし……それじゃないですかね多分(笑)。芸能界が苦手なのがいいんじゃないですかね。 ―(笑)。苦手だけど、ずっとその最前線でつくり続けているのがすごいです。