佐久間宣行に聞く、地上波で流せないコント番組『インシデンツ』の挑戦。「自分が最前線の視聴者」でいる意味
「地上波では放送できない」というテーマとコンプライアンス、笑いがはらむ暴力性
―『インシデンツ』は、「地上波では放送できないコント番組」を謳っていますよね。 佐久間:ドラッグとか暴力とか下ネタもたくさん出てきますからね。 ―コンプライアンスという点で、やっぱりこの『インシデンツ』シリーズを地上波テレビでやることは難しいんでしょうか。 佐久間:そうですね。やるとしても時間帯は選ぶんだろうなというのと、多少犯罪絡みのコントが多いのでノンスポンサーの枠じゃないとまずできないでしょうし、見たくない人がいたとしても不意に飛び込んでしまう地上波テレビという場所だとなかなか難しいんじゃないかなと思っています。 ただ、表現の内容としてはむやみに人を傷つけるものではないと思っていますし、差別とかに抵触しているわけじゃないと思っています。だからコンプライアンスという意味で「絶対にNG」とはじつは思っていないんですが、取り扱っている題材とネタ自体は地上波じゃできないことだろうなと思っています。 ―そうですよね。正直、最初に「地上波では放送できない」というテーマだけを見たときに、「タブーに挑戦」というか、誰かを傷つけるような表現とかがあったらどうしようみたいな気持ちを持ってしまったのですが、見てみたら、恥ずかしながらそれはまったく杞憂だったなと思ったんです。 佐久間:いろんな人が気持ちよく笑えるようなワクワクする内容にしたいと思っているので、ただ題材自体が地上波では扱いにくいものにしてるという感じで、そこは全然違うと思いますね。「タブーに踏み込む」ということが、差別とかに踏み込むというのはいつの時代だってダメだろうと思っているんです。「地上波でやれないこと」をやるとなったとき、それがいじめとか、虐げられているマイノリティの人を傷つけることだとは思わないです。 ―コンプライアンスと言えば、「最近どんどん規制が厳しくなって、窮屈になって……」みたいに捉えられがちだと思います。ただ、佐久間さんはあまりそういうふうに考えていないように感じるのですが、どうでしょうか。 佐久間:そうですね。変な話なんですけど、僕は『ゴッドタン』という本当にくだらない番組をたくさんつくっていて、20年ほど前から怒られるようなことをずっとやっていたので、コンプライアンスが急に厳しくなったという実感がそもそもないんです。というか、どんなネタでも笑える人と笑えない人がいるということをお笑いの番組をつくり始めたときから思ってるんですよ。 笑いってある程度は暴力性をはらんでるものだから、そもそも傷つかない人はいない。大事なのは、傷つかない人はいないということをわかりながらつくっていくことだと思います。 この部分は無闇に傷つけていないかとか、傷つけてしまう可能性があるとしてもそれはこういう内容で、覚悟を持ってこの表現をやっているんじゃないかとか、しっかり考えることで。これはじつはお笑いだけじゃないと思うんですよ。小説に出てくる真面目な内容にだって、感動的なドラマにだって、あらゆる表現すべてが暴力性をはらんでるというか、人を傷つける可能性がある。それをちゃんと意識してやっているかということと、あとはその気持ちをつねに持ちながら、まわりや社会を見ているかということのような気がしているんですよね。