阪神・藤川球児新監督が明かす「史上最速1000奪三振」達成の年にグラブに刻んだ「3文字」の言葉
周囲に惑わされない「不動心」
「落ち着いてやれ」という金本監督の言葉を聞いて、僕は自分でも気がつかないうちに、現実から逃げ出そうとしていたのではなかったか、と思った。 チームの負担になりたくないという気持ちに、偽りはない。ただ、チーム内での立場を思い悩むより、自分の限界に挑んで、全力を出し切ることに努めるべきではないのか。それでも周囲に迷惑をかけるようなら、さっさと見切りをつければいい。 右腕一本で生きてきたと自負するなら、引き際はあくまでこの右腕が決めるべきだと思った。 2年契約が終わる2017年のシーズンを迎えるにあたって、僕はグラブに刺繍を入れた。かつて「本塁打厳禁」と刺繍して、話題になったことがある。このとき僕が選んだ言葉は「不動心」という3文字だった。 周囲に惑わされず、僕自身にとって最高のパフォーマンスを追求する、という決意を込めていた。 刺繍の効果なのかどうか、開幕からリリーバーとしてスタートした翌シーズンは、前年に感じていたようなもどかしさもなく、僕は止まった時間を取り戻しつつあることを実感していた。 相変わらず個人記録にはほとんど関心がなかったが、このあたりの時期には積み重ねたキャリアに比例して、いくつかの通算記録を達成するようになっていた。 最も僕らしいのは、2017年5月30日に行なわれたロッテとの交流戦で達成した通算1000奪三振だろうか。 通算1000奪三振の771イニング3分の2での達成は、野茂英雄さんの記録を100イニングほど更新する史上最短記録となった。しかも、完投の経験がないのは、146人目の達成者となった僕がはじめてだった。ファンのみなさんの期待が僕を後押ししてくれたおかげで達成できた記録だった。
藤川 球児(元プロ野球選手)