袴田事件「無罪判決の瞬間」は異例すぎる光景に。傍聴人が法廷で目撃した「涙を流す“まさかの人物”」の正体
「主文 被告人は無罪」 “世紀の裁判”は、裁判長のこの言葉で大きな節目を迎えた。 1966年6月に静岡県清水市(現:静岡市清水区)で発生した、味噌製造会社の専務一家4人が殺害されて金品が奪われた上に、専務宅が放火されたという強盗殺人・放火事件。犯人とされたのは、袴田巖さん(88)。俗に言う「袴田事件」だ。 ⇒【写真】國井裁判長が読み上げた、84ページに及ぶ「判決要旨」の主文 今年9月26日、再審やり直しの裁判で静岡地裁(國井恒志裁判長)は「無罪判決」を言い渡した。 筆者はこの裁判を傍聴。法廷では、「涙」も「笑い」も、さらに平成最悪と言われた冤罪事件の冤罪被害者の姿も。本記事では、筆者の取材メモをもとに、法廷模様を振り返る。
法廷に拍手と歓声が起きる瞬間
開廷前から、法廷には中央に裁判官3名、左側に検察官2名、右側に弁護団16名と再審請求人で袴田巖さんの姉の袴田ひで子さん(91)が着席していた。ひで子さんは、裁判長の方を見たり、検察官をじっと見つめたり、時計を気にしたり。これまでに見たことのないほど、緊張の面持ちだった。 裁判長が腕時計で時刻を確認、定刻どおりの午後2時に判決公判が開廷した。開口一番、國井裁判長は「検察官と弁護人が協力して、短い期間で判決に至れたことを裁判長として敬意を表します」と検察側と弁護団をねぎらった。 その後、國井裁判長はひで子さんに対して、「よろしければ、主文だけでも証言台の椅子に座って聞きませんか」と語りかけ、ひで子さんは裁判長の正面にある証言台の椅子に腰をかけた。 すぐに國井裁判長は、裁判の結論を読み上げた。 「主文!被告人は無罪!!」 國井裁判長は選手宣誓のような、ハッキリとした大きな声で宣告した。ひで子さんは座りながら、裁判官らに向かって深く一礼。この瞬間、法廷は傍聴人らの「おー」という歓声の声と拍手に包まれた。すぐに國井裁判長は「傍聴人は静粛にしてください」と制止。のちに、ひで子さんはこの時に様子を「裁判長さんの言葉が神々しく聞こえました」と語っている。 ひで子さんは立ち上がり、弁護団の席へと戻る際に主任弁護人の小川秀世弁護士らと握手。徐々に涙ぐみ、ハンカチで涙をぬぐう仕草もあった。 「私は涙に強かったんです。こんな事件があって、今までめそめそしてちゃいけないと我慢していました。それが、今回の裁判で『無罪』を聞いた時に、本当にうれし涙があふれ出てきました」(記者会見にて)