報酬9800万円?米国での人気ユーチューバーボクシング対決が本物の世界戦を押しのけメイン抜擢に賛否
「この戦いは、プロモーターのエディ・ハーンが皮肉を持って主張していたようにボクシング界にとって良かったことだったのか。それとも、これまでのボクシング界で見られてきた悪い例の究極のカタチと評価すべきなのか。この狂気(の試合)の前座として、2つの純粋な世界タイトル戦が扱われたボクシング界の現状を何と考えればいいのだろうか。そして2人のユーチューバーたちが、無敗のビリー・ジョー・サンダースよりも多くのお金を持ち帰ることについては、何と評価すればいいのだろうか」という厳しい論調。 ワシントンポスト紙は「ユーチューバーのポールとKSIのボクシングの試合で重要だった唯一のことは、話題になること」との見出しを取って皮肉った。 KSIがポールに判定で勝利したことを伝えた上で、「結果はまったく重要ではない。ただポール対KSIの試合は、できるだけ多くの視聴者を稼ぎ、ボクシングとユーチューブという別の世界からなる人々の一団に給料をもたらすことになる」と記した。 「2018年に英国のマンチェスターで満員の観客のもとで行われた2人のユーチューバーファイトは10ドル(約1000円)のライブ中継に80万人以上が申し込んだ。今回の試合を中継したDAZNは、ワシントンポスト紙に、この試合の視聴者人数の詳細を提供しなかったが、DAZNノースアメリカのジョセフ・マルコウスキー副社長は、『試合は大成功だった』という声明をEメールで伝えてきた」と続けた。 同紙が伝えたかったことは、ボクシングがただ商売に利用されただけということだろう。 米国のCNNは、「ユーチューブスターのKSIが論議を呼ぶボクシング試合の再戦でポールを破る」との見出しを取って、この試合を報じ「ボクシング界にとっては良いことだったのか」と問題提起している。 「WBC世界ライト級王者のハニーとWBO世界スーパーミドル級王者のサンダースの2人の世界王者は、それぞれ勝ちを収めたが、メインイベントの前に試合をしなければならなかった。優秀なボクシング選手のハニーとサンダースへ敬意は払わねばならないだろうが、彼ら2人を合わせたところで、人気面では、マッチルームスポーツのエディ・ハーンが『今年最大のペイ・パー・ビューによるボクシングイベントになる』として予言していたようなものにはならなかっただろう。純粋なボクシングを求める関係者は、こういう傾向に懸念を口にしているが、タイソン・フューリー、デオンテイ・ワイルダー、アンディ・ルイスといったヘビー級王者は、このユーチューバーの試合に評価を与えていた」 つまりファンの関心を呼ぶのは、通常のボクシングの世界タイトル戦よりも、人気ユーチューバーの『色モノショー』という現実があるのだ。 KSIは、ただ乱暴にパンチを振り回しているだけだったが、終始積極的で、一発逆転を狙うポールの戦術もしたたかで、ワクワク感はあった。ジャブやディフェンスなどの高度な技術はなかったが、確かにボクシングの原点の殴り合いの面白さはあり、試合の前後のインタビュートークもさすが人気ユーチューバーだけのことはあった。 この対決をメインに持ってくるのは、ボクシングの伝統や権威をないがしろにするものだったが、“視聴者数至上主義”の「DAZN」にしてみれば、契約ボクサーの中では、サウル“カネロ”アルバレスや、ゲンナジー・ゴロフキン以外ならば、人気ユーチューバーが優先ということなのだろう。 日本でも「那須川天心にボクシングで勝ったら1000万円」などという“色モノ企画”が話題になったこともあったが、ボクシング界にとってはなんとも複雑な捉え方になるユーチューバー対決となった。