「眠れない」「誰も支えてくれない」……長引かせると重症化する、適応障害の「うつ状態」とは
「仕事をする気が起きず、出社がいやになってしまう」、「夜になると気持ちが落ち込み、眠れないし食欲もない」、「つらいできごとを思い出しては苦しくなって泣いている」……。病院に行くほどではないけれど、不安や抑うつの症状があるのなら、適応障害になっているのかもしれません。 【画像】母の再婚相手から性的虐待を受けた女性が絶句した「すべてが壊れた日」 適応障害とはストレスに適応できずに起こる、病気と健康の境目にある「状態」のこと。症状が軽いため、ストレスがなくなれば6ヵ月以内に回復するといわれています。しかし重症化すると、うつ病やPTSD、不安症など、ほかの病気に移行することもあるため油断はできません。 この連載では『適応障害のことがよくわかる本』(貝谷久宣監修、講談社刊)から、全8回にわたり、適応障害の対策を立てるためのヒントをご紹介します。今回は、適応障害のおもな症状について詳しくみていきましょう。 適応障害のことがよくわかる 第2回
落ち込んで仕事が手につかないなど、ほとんどの人が訴える「抑うつ」
適応障害の症状として、ほとんどの患者さんが抑うつを訴えます。原因となるストレスの始まりから3ヵ月たたないうちに、気持ちが落ち込み仕事が手につかないなど、支障をきたしはじめるのです。ただ、抑うつはうつ病ほどは重くありません。 たとえば少しブルーな気分でも社会生活はなんとか送れます。気持ちの落ち込みも、夕暮れどきなど一定時間だけ。ですから、こうした軽症のうつ病を「不全型うつ病」ということもありますが、これは医学的な名称ではありません。 とはいえ、ストレスになったできごとが続く限り、抑うつも続きます。何度も思い出しては抑うつに陥る人も。しだいに人間関係や社会生活に支障が出て、ひきこもるようになり、本格的なうつ状態になっていきます。重症化してうつ病になることもあるため、「不全型」でも軽視はできません。
夜ひとりでいるときに「不安」がふくらんでくる
適応障害を抱えていると、ストレスになったできごとや人間関係について、不安や心配でこころがいっぱいになります。好きなことや楽しいことがあると気分が晴れますが、それ以外はずっと不安や抑うつを感じています。患者さんは、とくにひとりでいるとき、夕暮れから夜間にかけて不安が大きくなるといいます。 彼らの多くが「寂しい」「孤独だ」と訴えるのですが、この気持ちは一般にイメージされる寂しさや孤独感とは質的に違います。 一般の方は、寂しさや孤独感があっても、解決に向けて対策を考えれば落ち着くものです。しかし、適応障害の患者さんは、不安や心配をどうすることもできないと感じて苦しみます。そして、どうせ誰も支えてくれない、解決なんてできないと自らを孤立させていくのです。このように病的な孤独感は、不安の裏返しでもあります。 不安を伴う適応障害は、不安症とかぎりなく近い病態です。しかし、不安症での不安は理由がないことが多く、その程度が強いのに対し、適応障害の不安は理由がはっきりしています。 また、原因となるストレスがあるという点ではPTSDにもよく似ていて、ストレスのもとになったできごとが何度も頭に浮かんできて苦しむ「フラッシュバック」もあります。ただし、それはPTSDのような生命にかかわるほどのトラウマではなく、「ミニ・フラッシュバック」のようなものです。ストレスになったできごとがいつまでも頭から離れず、不安や心配が続けば、不安症の診断を考慮します。