「本当にあのミンゲサか?」4節を終えて2G・3Aの活躍でスペイン代表にも初選出。バルサからセルタへの移籍で驚きの成長を遂げた“DFの衣を身に纏うアタッカー”
セルタの25歳の選手がこのシーズン序盤、ラ・リーガの注目選手のひとりになっている。オスカル・ミンゲサだ。バルセロナ時代の彼を知る人には、もはや同一人物とは思えないほどの“アタッカー”に成長を遂げており、4節終了時点で2ゴール・3アシストを記録。スペイン代表にも初選出された。 【動画】ミンゲサが1ゴール・1アシストの活躍を見せたバレンシア戦のハイライト もともとはバルセロナのカンテラーノで、トップチームに昇格した当時の本職はCBだった。そしてその後、右SBにポジションを移した。ロナルド・クーマン監督時代には、持ち前の攻撃力を発揮し、守備力の不足をカムフラージュできる3バックの右CBで活躍を見せたが、イメージはせいぜい「CBもできるSB」ぐらいの選手だった。 2021年11月にシャビに監督が変わると4バックが主流になり、出場機会が激減。戦力構想から外れる形で、その翌年の夏、契約が1年残っていたにもかかわらず、買い戻しオプションと他クラブへ売却した場合、移籍金の50%をバルサが受け取る権利をつけることを条件にフリーでセルタへ移籍した。 セルタは、ノリートやラフィーニャに代表されるように、バルサのカンテラ上がりの選手に新天地としてよく選ばれるチームのひとつだ。ミンゲサは加入1年目のシーズン、序盤は出番に恵まれなかったが、徐々にバリエーション豊富なキックを蹴り分ける技術や、相手の危険な位置に顔を出すインテリジェンスを発揮しはじめた。 そんな中大きな転機になったのが、昨シーズン、ラファエル・ベニテス監督に、右WBのポジションを与えられたことだ。状況に応じて右ウイングにも右インサイドハーフにも役割を変えながら、多彩なキックを武器にチャンスメーカーとして新境地を開拓。エースのイアゴ・アスパスとも距離が縮まり、ふたりのパス交換はセルタの攻撃時の大きな強みとなった。2節のバレンシア戦では、アスパスのクロスをミンゲサが鮮やかなボレーで叩き込むと、その5分後にはミンゲサの絶妙なスルーパスからアスパスがゴールを決めていた。 ベニテス監督は今年3月に成績不振で解任されたが、Bチームからの内部昇格という形で後を継いだクラウディオ・ヒラルデスは、前任者とは打って変わった攻撃サッカーの信奉者で、局面での判断を選手に委ねる「流動性を重視するスタイル」がミンゲサのプレースタイルにマッチ。ミンゲサは今シーズンの開幕4試合での働きぶりが認められ、マルコス・ジョレンテ(アトレティコ・マドリー)やペドロ・ポロ(トッテナム)ら実力者を押しのけてこの9月、スペイン代表に初選出された。 4節のオサスナ戦では、股抜きからのアシストというビッグプレーを見せたが、細かいボールタッチで密集をかいくぐる器用さは持ち合わせていないし、守備面でも成長した姿を見せているが、あくまで攻撃で貢献してなんぼの選手だ。自由度が高い環境のセルタとは異なるスペイン代表でも、同じように輝きを放てるのか。EUROで選手たちの能力を最大限に引き出し、頂点に導いたルイス・デ・ラ・フエンテ監督が、いかにその個性を輝かせられるか、興味は尽きない。 スペインの人気ジャーナリストのアクセル・トーレス氏は、「本当にあのミンゲサか?」といまなお信じられない様子で、セルタ移籍後のミンゲサの変貌ぶりを、最近のスペインサッカー界で起こった最も不思議な出来事のひとつとまで言い切る。 たしかに左右のWBをこなしながら、サイドを駆け上がり、スルーパスやピンポイントクロスでゴールをお膳立てし、FKを叩き込み、ボレーでネットを揺らし、そして前述の通り又抜きからのアシストを披露と、ここまで派手な活躍を見せる選手になるとは、バルサ時代は到底考えられなかった。セルタで驚きの成長を遂げた“DFの衣を身に纏うアタッカー”が、欧州王者、スペイン代表への扉をこじ開けた。 文●下村正幸
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