ロータリー専用車、2度目の挑戦は、さらなるワイド&ローのスペシャルティ! 初代サバンナRX-7をふりかえる【初代サバンナRX-7・SA22C型・1978(昭和53)年・前編】
マツダを象徴する技術がロータリーエンジンであることは誰にも異論はないだろう。その初搭載車は1967(昭和42)年の「コスモスポーツ」だった。 ロータリー初登場から約10年の時を経た1978(昭和53)年、コスモスポーツ以来のロータリーエンジン専用車として世に送られたのが初代サバンナRX-7だ。 本記事では、初代サバンナRX-7の詳細を解説していく。 TEXT:山口尚志(YAMAGUCHI Hisashi) PHOTO:中野幸次(NAKANO Kouji)/マツダ/モーターファン・アーカイブ 【他の写真を見る】初代サバンナRX-7のヘッドランプ、開発は、実はこんな形で進められていました。 排ガス規制で帰ってきた青空に響くロータリーサウンド 過去・現在が入り混じることをお許し願うとして--- トヨタはハイブリッド技術。日産ならターボにハイキャス、4輪マルチリンクサスペンション。ホンダは古くはCVCC、ちょっと前までなら種類が増えたVTECだったが、いまなら何だろう? 三菱は1990年代、MIVECエンジンや、クルマを知能化したINVECSで私たちをワクワクさせたが、いまならプラグインハイブリッドか。長い間、4WD界のリーダーだったSUBARUはいまはすっかりアイサイトのイメージ・・・すべてのメーカーがとはいわないが、各自動車メーカーの歴史をたどると、ひとつやふたつ、そのときどきで会社を象徴する技術が存在していることがわかる。 やはり初代RX-7はカッコよかった(画像57枚) マツダならロータリーエンジンだ。 ロータリーは現在、MX-30 ROTARY-EVで活躍中。 何度か生産中止の憂き目に遭っているロータリーエンジンだが、その間もロータリーが社史で語られるだけの遺物にならず、「マツダといえばロータリー、ロータリーといえばマツダ」のイメージを保っているのがすごい。 正確にいうと、生産をやめて世間が忘れかけた頃に復活させる・・・世の中から姿を消しても、その裏でロータリーの火を絶やすことなく、常に次代に向けた姿を模索しているのだ。いまのMX-30 EV-ROTARYもその一例だろう。もっともMX-30 EV-ROTARYはハイブリッドの発電用としての復活だが・・・ さきに掲げた各社の技術は、時代に応じてイメージが変わっているが、たとい電動化時代になってもマツダの象徴は変わらずそのままロータリーエンジンであってほしいと勝手に思っている。日本の自動車メーカー・マツダの執念と技術は、世界に誇っていい。 ほんと、「世界のHONDA」と並んで、マツダだって「世界のMAZDA」と称されてもいいのではないかといったらホメ過ぎるかな。 そのロータリーエンジンの初搭載車は1967(昭和42)年のコスモスポーツだ。 当時の西ドイツ・NSU(エヌ・エス・ウー:アウディの前身)が手がけたロータリー技術に着目したマツダは、1961(昭和36)年に開発着手。技術者をNSUに送り込むなどもしたようだが、いちばんの難題だったチャターマーク・・・通称「悪魔のひっかき傷」を克服し、どこのメーカーにも回せなかったロータリーエンジンを、6年の研究開発の末、マツダだけが実用化にこぎつけた。 NSUはシングルローターで、マツダも当初はシングルローターの道を探ったが、並行して自動車に載せた場合の適性も検討したなかで、トルク変動の面で自動車用には2ローターのほうが有利とわかり、途中で開発は2ローターに1本化、ローター数の変更に伴い、吸入方式や冷却液の経路、プラグ数なども変わり、結果的に構造はNSUのものとはまるで別ものになった。 コスモスポーツで「世界初の2ローター」の快挙を遂げたロータリーは、以降、ファミリア、ルーチェ、カペラ、サバンナ、ロードペーサー、コスモなどに続いたが、これらでロータリーのメリットが活きたとはいえない。 ではロータリーエンジンのメリットとは何か。レシプロエンジンに比べて部品点数が少ないことが挙げられるが、これは造り手にとっての話。ユーザーに向けた商品性・・・外形デザインや性能に直結するのは軽量・コンパクト・低重心だ。これらをフルに活かせば、スタイリングにも自由度が生まれてフードも低くでき、スポーツカー or スペシャルティらしいワイド&ローを存分に表現することができる。さきのコスモスポーツ以外は実用車。レシプロエンジンが主体だからフードを低くすることができず、ロータリーならではのデザインじゃないし、そもそもそれが必然性のクルマではない。ロータリー搭載車はあくまでも別エンジンを載せたバリエーションに過ぎなくてもよかったのである。 そのロータリーエンジンもこれらマツダ車を転々とするうち、「世界初」から約10年と余経過。ここでもういちど、ロータリー専用の2ドアを造ってみようじゃないか・・・そんな機運がマツダ社内で高まったのか、心機一転、コスモスポーツ以来のロータリーエンジン専用2ドアクーペが1978年に誕生する。 【概要】 ネーミングは「サバンナRX-7」。 「スポーツカー」に「スペシャルティカー」・・・その定義は判然としないが、初代サバンナRX-7は、ふたを開ければ、どちらかといえばスペシャルティの道を採ったように映る。 そのイチからのロータリー専用スペシャルティの割に、実用セダンの名称だった「サバンナ」を冠称に持ってくるなんて、疑問に持つ向きもあろうが、これは時代背景が影響しているようだ。 発表・発売は1978(昭和53)年3月30日。ときは70年代前半に始まった、アメリカのマスキー法に端を発した排ガス規制に目途がつき始めた頃。何といってもCO(一酸化炭素)、HC(炭化水素)、NOx(窒素酸化物)の排出量を従来の10分の1にしようという規制を、いまほどの電子デバイスもない、燃焼方式や機械制御だけでクリアしなければならなかったのだから、走りを楽しむスポーツカーだのスペシャルティだのと口にするのははばかられる時代だ。そこへ専用ネーミングの新型スペシャルティカーを出そうものなら袋叩きに遭いかねない。当局も黙っちゃいないだろう。 それを回避するために、まったく新思想のクルマでありながらも、建前上は従来サバンナの高性能モデル「サバンナGT」のモデルチェンジ版のようなネーミングにし、「サバンナRX-7」に決定・・・このへん、1974(昭和49)年に追加された初代シビックのホットモデル「RS」が「ラリー・スポーツ」ではなく、「ロード・セイリング」の略とごまかした(?)のと似ている。排ガス規制はその対策に技術者を苦しめただけでなく、車両ネーミングにまで影響をおよぼしていたのだ。 さて、初代RX-7は登場当初、次の4つのバリエーションで発売された。 ●Custom : スポーツカーには欠かせない回転計やフットレストは備えるものの、シリーズ中いちばんの廉価モデル。唯一シートはビニールレザーだし、時計すら備わらない。装備レベルだけでいうならそのまま営業車に使ってもよさそうなクルマだ。内装カラーも、低コストを求めて(?)ブラックだけ。 取引先の営業マンがこんなクルマでやってきたら好感持たれ、即、契約に至ることまちがいなし! ・車両本体価格 : 123万円(5速MT車のみ。昭和53年3月30日発表時・東京価格。以下同。) ●Super Custom : Customに対して電動式3針時計、電動式ガラスハッチオープナー、間欠ワイパーを加え、多少利便性を追加した機種。 ・車両本体価格 : 137万円(5速MT)、141万円(REマチック) ●GT : Super Customにハロゲンライト、マップランプ、防眩ルームミラーなど利便装備が加わるほか、鉄のホイールはめっきのリングで装飾。GTというと、例えばいつかのカローラのGTのように、下から上まで、単なる並びの標準シリーズからオフセットしたモデルの場合が多いが、サバンナRX-7の場合、「GT」と名乗ってはいても、4つあるうちの上から2番目、下から3番目というだけの意味合いが強い。ただし、「GT」の名でイメージされる、スパルタンな雰囲気を出したかったのだろう、ボディ色問わず、内装色はさきのカスタムとは別の意味で黒1色に徹している。 ・車両本体価格 : 144万円(5速MTのみ) ●Limited : 最上級機種。他の3機種にはない電動ミラー、アルミホイール、AM/FMラジオ、カセットデッキ、全面布で覆われたシートを備える豪華版モデル。 ・車両本体価格 : 169万円(5速MT)、173万円(REマチック) エンジンはミッドシップに搭載。それもフロントミッドシップで、その後の例には直列5気筒アコードインスパイアや、V型エンジンに移行したスカイラインがあるが、「フロントミッドシップ」を謳ったのは、確かこの初代サバンナRX-7が最初のはずだ。 左右前輪中心を結ぶ軸線よりも後方=車室側にロータリーエンジンを搭載することで重心も後方移動。前後重量配分の理想は50:50だが、空車で理想を求めてもしょうがない。サバンナRX-7は2名乗車時に理想に近い前50.7:後49.3になるよう設計してある。 本記事では初代サバンナRX-7の出たてホヤホヤ、1978年7月登録のGTを主役に据えていく。ただし、このクルマは個人所有のものなので、多少オリジナルと異なる点があることをご了解いただきたく。 ★マーク付きは、当時の資料などでの名称です。 外観 ・正面 地を這うような低さを感じるフロントビュー。このクルマは個人所有車。オーナーの趣味でナンバープレートが車両左にオフセットしているが、本来はセンターに配される。 ・斜め前 フード先はなだらかに下がり、スカートは下から上に・・・バンパーの角棒型に目をつぶれば、このふたつ上下からの歩み寄りで空気をスパッと切り裂く空力効果がイメージできる。 ・真横 フードの低さはこのサイド視でよくわかる。さきのファミリア以降の場合と異なり、レシプロエンジン搭載などまったく視野外にできるから、ロータリー搭載が前提のロープロファイルなフードが実現できた。ロータリーエンジン専用に決め打ちしたからこそのデザインなのである。 ・真後ろ コスモスポーツはサイド視でのスタイリングから「宇宙船」の愛称で親しまれた。初代サバンナRX-7は後ろ姿に宇宙船イメージがある。見かけ上、1枚ガラスが左右にラウンドしているように見えるガラスハッチ、ランプよりナンバープレートが上にオフセットしている姿がそう思わせるのではないか。 ・斜め後ろ この角度で見ると後ろ寄りへの重心を感じる。サイドプロテクターとリヤバンパー(フロントバンパーもだが)上のモールの段差が惜しい。 【灯火】 ★ヘッド・ランプ ヘッドライトはまばたきお目めの2灯式。ライト点灯で目を覚ますほか、別建ての★ヘッドランプ・リトラクタ・スイッチででもライト点消灯と無関係に単独開閉できる。このクルマは白だが、イメージカラーの緑のRX-7が目を開いている姿は完全にカエルだ(上写真参照)。 もっとも当初は、その後の日産エスカルゴの様に目玉が起きた状態での固定ライト式カエルフェイスでデザインを進められていた。だが、ねらいのひとつにしていたアメリカ輸出での200km/hオーバーが、固定ライトでは空気抵抗になって達成できないとわかり、リトラクタブルに変更された経緯がある。デザインも設計も固定ライト前提で進められていたため、開発途中のリトラクタブル式への変更は、開閉メカの収容スペース確保に苦労したという。 ★フロント・ターンシグナル・ランプ/フロント・ロング・パーキングランプ バンパーに内蔵。内寄りに小さな車幅灯(スモール)、外側の大きなほうがターンシグナルだ。スモールは、この頃義務付けられていたパーキングランプを兼用している。 サイド側ターンシグナルはプロテクター下にレイアウト。 ★リヤ・コンビネーション・ランプ 内側から白のリバース、オレンジのターンシグナル、赤のテール&ストップ。赤部分にはリフレクターも内包する。左右独立しているランプは、1980(昭和55)年のマイナーチェンジで国産初の二重スモークレンズに変わるとともに左右ランプを結ぶ黒のガーニッシュが加わり、ナンバープレートがバンパー下に移ってリヤスタイルが一新される。 外観装備 ・バンパー バンパーは前後とも鉄製だが、70年代後半に高まった安全対策が進展し、バンパー両端には周囲のひとやクルマなどへの接触対策でゴムクッションが施され、正面もゴムモールが取り付けられている。バンパーは後年、材質が樹脂に変わるが、その姿は次の次の次の写真のとおりだ。 ★安全合わせガラス マツダは合わせガラスの採用が早いメーカーだったと思う。だからといって、義務化前からずっと全マツダ車が合わせガラスに徹したわけでもないようだが、このサバンナRX-7の場合は1978(昭和53)年の時点ですでに全機種標準で与えられている。 透明樹脂膜を2枚のガラスでサンドし、衝撃を受けたとき、大まかなヒビにすること、衝突時に割れた際の飛散を防ぐこと、フィルムによって中の乗員や荷物の飛び出しを防ぐといったねらいがある。 強化ガラスなら光にかざす角度から見えるタテ筋の熱処理跡がないのが合わせガラスの証拠。 最上級Limitedだけ、ガラス上縁がティンテッドになっている。 ・フェンダーミラー 1983(昭和58)年のドアミラー認可以前はフェンダーミラーが必須。はっきりいって、私は世の中がいうほどドアミラーがかっこいいと思わなければ、フェンダーミラーがかっこ悪いとも思わない。 フェンダーミラーは車両のおおよその幅と先端が運転姿勢でわかる、左右の目の移動量が小さくてすむ、車両やミラーステーの形しだいだが、車両最大幅がドアミラーの場合より小さい、雨天時は、鏡面に水滴が付着していても、ワイパー払拭エリアから後方確認ができるといったメリットがある。ドアミラーはその逆で、目の移動量が大きい(特に左!)、車両最大幅がフェンダーミラーの場合より大きい、降雨下ではサイドガラスと鏡面、2面の水滴がじゃまになるといったデメリットが。 ドアミラーにもメリットはあり、ドライバーの近くにあるだけに像が大きく見える、遠方のフェンダーミラーは像が小さい・・・利害得失それぞれだが、それとてひとにもよるのだから、以前のように、フェンダーミラーとドアミラー、選択できるようにすればいいのに。あなたならどちらを選びますか? クラウンのタクシーのフェンダーミラーなんざあ最高だぜ? ・サイドプロテクター 車幅はGT以上が1675mm、Super Custom以下が1650mm。その差異はサイドプロテクターの有無による。ということは厚みは片側で12. 5mm! これだけ厚けりゃあ、隣のクルマのドアがやってこようとボディサイドをガードできる! モデルチェンジごとのサイズ肥大化で、国産車が下から上まで、車幅が5ナンバーサイズ枠いっぱいの1695mmになってプロテクターがなくなった頃、デザイン優先と、その厚みぶんだけで3ナンバー域に踏み込んでしまうことをその理由に掲げていたが、多くが3ナンバーになって制約から放たれ、つくようになったかといえば、プロテクターがつくクルマは少ない・・・やはりデザイン優先だけだったのだ。うそつき! ・エアアウトレット むかしはどのクルマにもキャビン部のどこかしらについていたが、外の音が入ってくる問題と見映え優先で、いまのクルマの車内気は荷室を通過し、リヤバンパー裏から抜けるようになっていると、「ハイエース記事」のときに書いた。 音の問題はともかく、サバンナRX-7ではロールオーバー形状のセンターピラー後部に、そうとわからないようスリットを設置。これぞデザインと機能の両立だ。 ・キー孔 いまはクルマの外側にキー孔がなくなりましたな。いまは運転席ドアにかろうじて残っているくらいで、キーリモコン全盛以降、助手席ドアにもトランクにもなくなった。助手席ドアは、むかしは同じクルマでも廉価機種にはなく、上位機種にあることが多かった。これは廉価車はより安く仕上げたかったためだが、現在高級車にすらないのは車上荒らし対策の意味合いが大きい。 というわけで、次回は初代サバンナRX-7のインテリアに迫ります。 また次回。 【撮影車スペック】 マツダサバンナRX-7 GT(SA22C型・1978(昭和53)年型・5段MT・オーロラホワイト・ブラック内装) ●全長×全幅×全高:4285×1675×1260mm ●ホイールベース:2420mm ●トレッド前/後:1420/1400mm ●最低地上高:155mm ●車両重量:1005kg ●乗車定員:4名 ●最小回転半径:4.8m ●タイヤサイズ:185/70SR13 ●エンジン:12A型・水冷直列2ローター) ●総排気量:573cc×2 ●圧縮比:9.4 ●最高出力:130ps/7000rpm ●最大トルク:16.5kgm/4000rpm ●燃料供給装置:2ステージ4バレル ●燃料タンク容量:55L(レギュラー) ●サスペンション 前/後:ストラット式コイルスプリング/4リンク+ワットリンク式 ●ブレーキ 前/後:ベンチレーテッドディスク/フィン付きドラム式リーディングトレーリング ●車両本体価格:144万円(当時・東京価格)
山口 尚志