写真家・岩合光昭、原点はガラパゴス ネコにいい顔してもらえる秘訣とは?
翌年はアフリカへ 自然が好きだから写真家になったのだと思う
その次の年は、アフリカにいた。 「水平線が、地平線に変わった。そこにキリンや象をはじめ動物たちが暮らしているのですが、彼らがたくさん食べるためには緑がなければいけない。海でいえばクジラも大きいですけど、豊かな海があって魚がいっぱいいれば、クジラも生きていける。いつもそういう、動物が暮らす背景がすごく好きなんです。僕はたぶん動物好きから写真家になったのではなく、自然が好きで写真家になったんだと思います」 だが、撮影は簡単にはいかない。動物は、思い通りには現れてくれないからだ。 「先日もブラジルのパンタナルという大湿原で取材したのですが、そこは日本の本州ぐらいの広さがあります。そのなかでジャガーを探して撮るのですが、1年、2年では足りなくて、結局3年、6回も通いました」 ベテランの動物写真家に対して愚問かもしれないが、そういうときつらくはないのだろうか。 「待つって嫌ですよね。だから僕、待つっていう意識を持たないようにしているんです。たとえば風が吹いて木の葉が舞ってきた、ああ、風が強いな、もう葉っぱが落ちる季節なんだなとか、自然の変化を自分のなかに取り入れようとしています。そうすると、待っていた動物が目の前に現れても、木の上を見ていたりして、なんでそこにいるの?みたいな。そういうこともありますね」 現在67歳の岩合だが、キャリア初期の20代から世界に認められてきた。1979年、アサヒグラフに連載された『海からの手紙』で第5回木村伊兵衛写真賞を受賞。82年から84年まで、アフリカ・タンザニアのセレンゲティ国立公園に滞在して撮影した写真集『おきて』は、英語版が15万部を超えるベストセラーとなった。また、日本人写真家としては初めて『ナショナルジオグラフィック』誌の表紙も2度飾っている。
ネコの背景は人々の暮らし いい顔をもらうには、愛情を持って「いい子だね」と話しかける
そんな岩合だが、近年はすっかりネコの写真や映像で親しまれるようになった。現在も、写真展『岩合光昭の世界ネコ歩き2』が5月14日まで、日本橋三越本店(7階催物会場)で開かれている。同展は、2012年から全国各地のネコファンを魅了してきたNHK BSプレミアムの人気番組「岩合光昭の世界ネコ歩き」の写真展の第2弾だ。 「野生動物の撮影では、臨界距離というのが大切なんです。これ以上近寄ると彼らが嫌がるという距離。ふれてはならない、人が立ち入ってはならない世界が彼らにはきちっとしてあるんです。一方、ネコや犬といったペット、羊や豚などいわゆる家畜といわれる動物は、人の手がふれてもいい動物たちです。われわれも、彼らに愛情を持って接さないといけない。なかでもネコは、ひもに結ばれていないんですよね。なかなか画面に収めるのが難しい反面、写真の撮りがいがあって魅力的だな、と僕は思うんです」 動物自体はもとより、その背景に深い興味を抱いているのはネコが被写体の場合も同じだ。 「ネコの背景って、人々の暮らしだと思います。ネコを通じて地面の色だったり人々の足元だったり、いろいろなものが写真や映像に写ってくるのですが、それが家から村、町、大きくいえば国まで見えてくることもある。ネコを通して見た世界というものが、写真や映像を通して撮れるんです」 当然、ネコ自身も土地や人に影響を受けるのだとか。 「暮らしって、そういうものですよね。毎日同じことを繰り返しているようで、一瞬として同じことってない。犬と違ってネコには、ご主人様っていないんですよ。われわれ人間のことを、一緒に暮らす仲間だと思っている。そこがすごくネコの興味深いところで、『ネコは思った通り動いてくれない』とかいろいろ言われますけど、ネコのほうではけっしてそんなことは思っていなくて、ネコからしたら逆に、人のほうが言うこときかないって思っているでしょうね」 ネコを撮るとき、岩合はネコに話しかけるという。 「毎回そうです。『世界ネコ歩き』の撮影中、僕が一番口にする言葉は『いい子だね』っていう言葉だと思うんです。『いい子だね』って言うと、自然にこちらの表情なんかもやさしくなるんで、それがネコにいい顔をしてもらうきっかけになるんです」