初めてまぶたを開けた赤ちゃんがその目で見るのは…人の顔?とても悪い視力の新生児が<顔っぽいもの>を目で追う理由
デジタル時代の今、インターネット上では過度に加工された顔があふれています。なぜ、人間は《理想の顔》に取り憑かれるのでしょうか。そのカギとなる「脳の働き」に、大阪大学大学院情報科学研究科で身体・脳・社会の相互作用を研究する中野珠実教授が、最新科学で迫ります。中野先生によると、人間の赤ちゃんは生まれたときから《人の顔》を好んで見ているそうで――。 【図】「顔」でなくとも、とにかく「縦長の楕円の中で逆三角形の位置に物体がある図」を赤ちゃんは好んで見ていることが分かる * * * * * * * ◆顔を見るのは生まれつき? 人間の赤ちゃんは、お母さんの胎内で活発に手足を動かし、胎内に響くさまざまな音を聞き、さまざまな感覚を発達させています。けれども、生まれるまではまぶたを閉じたまま暗い胎内にいるので、視覚に関する能力はほとんど発達しません。 そして、この世に生み出されて初めてまぶたを開け、世界を目にするのです。いったい、その目には何が見えているのでしょうか。 1963年、ロバート・ファンツは、新生児の視覚の認識力に関する驚くべき報告をScience 誌に発表しました(*1)。 その内容とは、新生児が人の顔を描いたイラストに注目する(専門的には「選好する」と言います)というものでした。
◆顔の図式を描いた画像を眺める時間が最も長かった そもそも、ファンツは、視覚経験のまったくない新生児は、パターンや色といったものをどのくらい認識する能力があるのかを調べるために研究を行っていました。 生後10時間から5日までの新生児をベビーベッドに寝かせ、そこから30センチメートルほど上にある布にプロジェクターで画像を投影して新生児に見せます。 すると、赤や黄色といった色や、新聞記事のような細かい文字の画像を眺める時間はとても短かった一方で、顔の図式を描いた画像を眺める時間は、最も長かったのです。 この研究により、人間には社会的な情報を含む顔を生まれつき好んで見るような生得的な機構がそなわっている可能性が浮かび上がってきました。 その後、この生得的に顔に注目するという発見が本当に確かなものなのかを、さまざまな研究が検証してきました(*2、3)。ファンツの実験は、生後5日の赤ちゃんも含んでいたため、その間に両親の顔を見たことが影響していたのかもしれません。 そこで、生まれてから数分しか経っておらず、明らかに顔を見た経験がない状態の新生児だけを対象に選んで研究が行われました。 まず、大きなしゃもじ型の板に、人間の顔のイラストと、その目や口の場所を入れ替えたイラストなどを描き、その板を新生児の顔の前でゆっくり動かしながら見せます(図1)。そして、それを見ている新生児の顔や目の動きを頭上のビデオカメラから撮影し、しゃもじに描かれた絵を追いかけて見る回数を調べたのです。 すると、刺激の条件統制がきちんと取られた実験でも、やはり新生児は、目や顔を動かして、人の顔のイラストを一番長い時間、眺めていることが確認されました。
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