「つみたてNISA」の取り組み姿勢で決まる? 今後生き残る金融機関
「つみたてNISA」に込められた狙い
「つみたてNISA」は、投資対象が投資信託と一部の上場投資信託(ETF)に限定されている。まさに資本市場において生活者の長期資産形成を促すという投資信託本来の存在意義が提起されているのだ。さらに長期的な運用成果を合理的に実現できる投資商品という観点から、いくつもの厳しい商品登録要件を課した。その前提でのスクリーニングの結果、金融庁は6000本超の既存公募投信のうち登録要件を満たした商品は50本程度と全体の1%にも満たないとの実態を金融モニタリングレポートでもあきらかにした。 言い換えると日本の投信業界は商品提供において、当局が期待する社会的役割を果たしていないということになる。そして長期資産形成に適さない商品組成が繰り返されてきた主な原因に、証券・銀行等の販売姿勢が挙げられている。金融庁は投信の販売手数料稼ぎが事業目的化してしまった中で、投資家の間では短期間で商品の乗り換えを促す回転売買が常態化し、専ら顧客利益を顧みない営業スタイルが定着しているのではないか、と様々な販売データによる状況証拠から類推している。しかし、「つみたてNISA」はノーロード販売だけに制約されていることから、販売手数料ありきの伝統的投信対面販売のあり方は、抜本的な再考を求められているのだ。 具体的には20年という前例のない圧倒的な長期非課税期間が適用された「つみたてNISA」の推進において、販売金融機関は販売手数料という一時的なブローカー業務ではなく、運用会社から受け取る代行報酬によりストックで収益事業化を目指すことを求める意図が制度に内包されていると受け止めるべきである。金融庁は販売側におけるビジネスモデルの抜本的な大転換を実現させることで、生活者はおのずと投信の長期保有へと誘われる。長期資産形成を目的として組成された商品を20年スパンの長期で継続投資することによって、生活者は合理的運用成果で報われる。顧客資産を積み上げた金融機関も安定的な収益基盤を手に入れることができる。これこそが真の顧客本位に資する業務運営であると、「つみたてNISA」の制度主旨で意図しているのである。 金融改革の政策目的は1千兆円規模の預貯金の再稼働と前述したが、「貯蓄から資産形成へ」と的確にシフトしたお金は成長マネーとして長期的にキャッシュフローを創出させる。そうした新たな富の課税を免除することで、運用成果は丸ごと生活者のリターンとなる。 長期的経済成長の果実を資本市場を通じ生活者が享受できる社会システムが実現すれば、おのずと国民総所得(GNI)が拡大していくはずである。そこへ向けて金融業界が不断の努力を重ねていくことは、究極の顧客本位であるに違いなく、森長官がいみじくも言及した「顧客本位が組織に根付いた金融機関が発展し、顧客本位を口で言うだけで具体的行動に繋げられない金融機関が淘汰される市場メカニズムを構築して行く」のが金融改革のゴールであろう。 「つみたてNISA」への取り組み姿勢について、すでに金融機関各社で温度差があるが、早晩金融業界全体で優勝劣敗が明らかになる時が来るに違いあるまい。 (セゾン投信株式会社 代表取締役 中野晴啓) セゾン投信株式会社代表取締役社長。1963年生まれ。87年クレディセゾン入社。セゾングループ内で投資顧問事業を立ち上げ運用責任者としてグループ資金の運用等を手がける。06年セゾン投信(株)を設立。公益財団法人セゾン文化財団理事。一般社団法人投資信託協会理事。全国各地で年間150回講演やセミナーを行っている。