社長就任直後に直面した、危機的状況の打開策とは|アルページュ代表取締役 野口麻衣子さん|STORY
――ブランドの横展開については、どのように拡大されてきたのでしょうか?
ブランドの横展開については、ディレクター時代に4ブランドを立ち上げて、社長になってからCADUNEとArpege Sroryを増やしました。新ブランドをつくる時は、時流に乗ってニーズに合うものを提案。あとは必ず、販路やターゲットなどが既存ブランドと被らないことをやろうと意識して企画しています。 CADUNEを立ち上げた時は、ブランド自体に意味を持たせるコンセプチュアルブランドを作りたいと思って。私はずっと女性として仕事を続けてきましたが、日常生活の中では妻として、母としての顔もある。だからこそ、いい時もあるけれど落ち込むことも沢山ありますよね。そんな、女性とは切っても切り離せない月の存在からインスピレーションを受けて、フランス語で月の光という意味のClair de luneを短縮した造語がCADUNEなんです。月の光のように、人に寄り添うような服を作りたいというのがコンセプト。この服を着ると気持ちがいいなとか、落ち込んでいたけどこのカラーを着ると元気が出るとか、そういう洋服を届けたかった。 そして幸か不幸か、CADUNEが立ち上がった直後にコロナが大流行して。時期としては困難な時に生まれたブランドだけど、一方で、コロナ禍の風潮にはマッチしたコンセプトだなと。人とのコミュニケーションが激減した時期だったからこそ、”人に寄り添う“というコンセプトに意味があるし、今の世の中に無くてはならないブランドだと再確認できました。色々なシーンで女性を華やかにするだけでなく、五感に響くようなブランドにしたかったので、今後はライフスタイルまで提案できたらないいなと思っています。香りなど、日常の癒しになるようなアイテムも作っていきたいですね。
――ブランドを立ち上げる時に、意識していることはありますか?
ブランドづくりにおける難しさは、”洋服のデザイン“と”経営“という全く異なる両極端にあるものを、右脳と左脳の両方をフル回転させて処理しなければいけないところ。デザインはクリエイティブだから感性を使うし、経営は数字に基づいて現実的に考える必要がある。もちろん情緒的に「自分がこういうものを作りたい」という思いも大切なんですけど、一方で、計算高く現実に着地させていかないと続けられない。だからその両輪を常に意識するようにしています。2~3年に1度は、感性を研ぎ澄ませる意味でも、事業を大きくしていく意味でも、新しいブランドを作りたいという思いがありますね。 情緒的に訴えかける商品をビジネスとして売るという掛け合わせが、アパレルの大変さであり醍醐味。だからこそ面白くて夢があるし、毎シーズン苦しくても新しいアイテムを生み出せている気がします。今も、大きな方向性についてのディレクションは私がしていますが、デザイナーのクリエイティビティは大切にしつつ、「売れる」という視点で立ち戻るところは軌道修正する。それが代表としての役割だと思っています。
野口麻衣子さん(49歳) 株式会社アルページュ 代表取締役社長 新卒で入社したアパレル企業で1年働いたのち、両親が創業したアルページュに入社。『アプワイザー・リッシェ』の前身ブランド立ち上げに携わり、現在は6ブランドを展開、250名近いスタッフを擁する企業に導く。2008年に第1子、2016年に第2子を出産。2017年より代表取締役に就任。2020年には心地よさをキーワードにした新ブランド「カデュネ(CADUNE)」をローンチ。Instagram:@noguchimaiko125 撮影/沼尾翔平 取材/渡部夕子