エルメス「バーキン」を巡る集団提訴、日本での違法性を弁護士が解説
「ブランドが顧客を選ぶ」売り方は違法なのか
一定額を購入するいわゆる「VIP顧客」に対して、レアな商品や人気アイテムを優先的に紹介することはファッションの世界では往々にしてある事象だが、「ブランドが顧客を選ぶ」売り方は違法なのか。 これについてファッションローに詳しい橋爪航 弁護士は、「度合いにもよるが、直ちに違法と判断するのは難しい」と話す。「物の売買は契約行為であり、契約自由の原則が適用される。販売する側にも基本的には売る相手を選ぶ自由が認められる。特定の人物の入店を断る“出禁”措置も同じ原理だ」と説明する。これは米国でも日本でも基本的に同じ考え方だという。 また、仮に今回の訴訟が日本で起きたとして、原告らが問題としている「事前に他の商品を一定数購入しなければバーキンを購入するチャンスが得られない」販売手法が事実だった場合でも、直ちに独占禁止法上規制される抱き合わせ販売だとはいえず、「実務的に違法性を証明するのは非常にハードルが高い事案」だと橋爪弁護士は指摘する。 日本における「抱き合わせ販売(不要品強要型)」の違法事例として有名なのは「ドラクエ4事件(藤田屋事件)」だ。1990年に発売され、当時爆発的な人気を博した「ドラゴンクエスト4(以下、ドラクエ4)」を扱う卸売業者が、小売業者に対して「ドラクエ4」1本と不人気のゲームソフト3本とを抱き合わせて販売した事案では、買い手の商品選択の自由を妨げ、卸売業者間の競争手段として公正を欠くと指摘され、公正な競争を阻害するおそれがあると判断された。 橋爪弁護士は、今回のエルメスの事案がドラクエ4事件のように「競争手段として不当」と主張することには一定のハードルがあるだろうと指摘する。また、近年では公正取引委員会が独禁法上規制される「優越的地位の濫用」がB2Cにも当てはまることを示すガイドラインを出したが、これも社会インフラを担うようなデジタルプラットフォーム事業者を対象としたケースを想定しているため、エルメスの事例を近年の実務と同じく優越的地位の濫用として構成することにも難しさがあるだろうと説明する。 橋爪弁護士は米国で起きている訴訟についても「原告らが勝訴することは難しい事案だと考えられる。クラスアクションであることも踏まえると、原告らが主張するエルメスの販売手法を世の中に知らしめることも目的の一つとの考え方もあるだろう」と話す。原告らの主張する販売方法が事実かどうかも含め、今後の裁判の行方が注目される。 平川裕 幼少期を米国で過ごし、大学卒業後に日本の大手法律事務所に広報担当として勤務。2017年に「WWDJAPAN」の編集記者(バッグ&シューズ担当)としてパリ・ファッション・ウィークや国内外のCEO・デザイナーへの取材を担当する傍ら、ファッションロー分野を開拓する。現在はフリーランスのファッションライターとスタートアップのPR担当という二足の草鞋で活動中。無類のハイヒール好きで9cmヒールが基本。