クアルコム「Snapdragon 8 Elite」でスマホ体験はどう変わる? 発表会現地レポート
米クアルコムがモバイル向けSnapdragonシリーズの新フラグシップSoCとなる「Snapdragon 8 Elite」を発表した。クアルコムが自社で設計開発するCPU「Oryon(オライオン)」をモバイル向けに最適化。現行「Snapdragon 8 Gen 3」からネーミングも一新して、生成AIに関連する機能も大きく強化した。 【写真】ゲーミングコンテンツの滑らかな表示を実現する「AI FRC(Frame Rate Correction)」などの技術が新たに搭載される ハワイのマウイ島で開催された発表会「Snapdragon Summit」では、Xiaomi(シャオミ)やHOROR(オナー)、ASUSのゲーミングブランドであるシリーズから、10月末以降にSnapdragon 8 Eliteを搭載するグローバルモデルのAndroidスマートフォンが正式発表されることも明らかになった。 ■AI PCで好評の「Oryon」をモバイルにも拡大 イベントの基調講演にはクアルコムの最高経営責任者であるクリスティアーノ・アモン氏がステージに登壇した。 クアルコムは昨年のSnapdragon Summitで、Oryon CPUを搭載するコンピューティング(PC)向けのSoCである「Snapdragon X Elite」を発表した。今年に入ってからミドルレンジ向けのSnapdragon X Plusの3シリーズも追加している。アモン氏は特に9月に発表したSnapdragon X Plus 8コアが10万円を切るCopilot+ PCに対応するAIモバイルノートの普及拡大にも貢献していることに触れながら、好調ぶりを伝えた。 そして「これからはクアルコムのSoCが人とAIデバイスが、自然に言葉を交わすような新世代のユーザーインターフェースを実現する。Snapdragonを搭載する先進のAI PCをはじめ、モバイルやオートモーティブ、その他様々なスマートデバイスに体験を拡大したい」と意気込みを語った。 Snapdragon 8 Eliteにはモバイル向けに最適化した第2世代のOryon CPUを採用する。チップセットのプロセスノードは3nmに微細化を押し進めた。CPUは2つの4.32GHzプライムコアと6つの3.53GHzパフォーマンスコア、5.3Gbps LPDDR5Xメモリを搭載。処理速度を含むパフォーマンスと省電力効率の向上がともに期待される。さらにマルチタスク処理、ウェブブラウジングやゲーミングコンテンツのグラフィックス処理に関する体験の向上も図った。 CPU単体ではパフォーマンスを45%向上。電力効率は44%改善される。チップセットの消費電力も最大27%削減され、モバイルゲーミングのプレイ時間の拡大にも結びつくという。 ■多彩データを取り扱うマルチモーダル生成AI対応を強化 Snapdragon 8 Eliteシリーズも、コンピューティング向けのSoCとともに「AIスマホ」に広く搭載されることを主なターゲットに見据えている。前世代のSnapdragon 8 Gen 3よりもさらに生成AIに関連するパフォーマンスの強化を図った。 中核になる「Qualcomm AI Engine」はOryon CPUのほか、Adreno GPU、Hexagon DSPなどにより構成される。特に音声・テキスト・画像など種類の異なるデータを同時にまとめて扱う「マルチモーダル生成AI」への対応を強化している。 現行チップセットに対するNPU自体の強化も図っているが、2023年にエッジAIデバイスの開発者向けプラットフォーム「Qualcomm AI Hub」を立ち上げたことにより、様々な大規模マルチモーダルAIモデル(LMM)のほか、ランゲージベースのLLM、視覚を含むベースLVMとSnapdragon SoCとの合わせ込みがより一層洗練された。 イベント会場ではSnapdragon 8 Eliteを載せたモバイルデバイスのプロトタイプによる、様々な種類のデモンストレーションを体験した。中国のAIソフトウェアベンダーであるZhipu AIによる画像解析ソフトは、スマホのカメラで捉えた人物の画像をリアルタイムに解析。性別や出で立ち、着ている服などを文字と音声による情報に変換して伝えることができる。同じ端末でレシートをスキャンすると、自動的に金額を認識して“割り勘”等の計算を素速く行う。プロトタイプの端末上で様々な生成AIがスムーズに連携する様子を確認できた。 ■Adreno GPUも高性能。ゲーミングのグラフィックスを高画質化 Snapdragon 8 Eliteはゲーミングコンテンツの画像処理性能も向上した。Adreno GPUは初めて画期的なスライスアーキテクチャを採用している。1.1GHzのGPUスライスを全3基に12MBのグラフィックスメモリを搭載したことで、処理性能は40%、省電力効率は40%高めている。 AI画像解析によりフルHD解像度のグラフィックスを最大8Kの高解像度にフレーム単位でアップスケールする「AI Super Resolution 2.0」のほか、AI画像解析とフレーム補間を同時に行う「AI FRC(Frame Rate Correction)」など、ゲーミングコンテンツの映像を再生時に有効化する高画質化技術も揃える。 SoCを構成する画像信号処理プロセッサーの「Spectra」はNPUと直結することによりAI画像処理の精度を向上。カメラで捉えた被写体にリアルタイム解析をかけながら、人の肌や衣服、背景などのオブジェクトを選り分けて最適なフィルターをかける。 この「Semantic Segmentation(セマンティックセグメンテーション)」と呼ばれる技術は現行SoCで認識できるレイヤーの数が12を上限としていた。Snapdragon 8 Eliteでは250レイヤーまで大幅に認識できる範囲が広がる。結果としてデジタルイメージング処理は被写体の質感や色合いをより正確に記録できるようになる。 同様に高速・高精度なAI画像処理を持つISPの性能を活かして、元気に動き回るペットの視線をリアルタイムにトラッキングしながら複数の静止画像を連写、ベストショットを選択して残せる「AI Based Pet Capture」への展開事例もクアルコムの試作端末と、パートナーであるソフトウェアベンダーのArcSoftが試作したカメラアプリとの連携によるデモンストレーションとして紹介していた。 ■ハイレゾ対応の超低消費電力Wi-Fi伝送「XPAN」も機能追加 オーディオに関連する進化もある。クアルコムは昨年にこのイベントで超低消費電力の96kHz/24bit対応ハイレゾWi-Fiオーディオ伝送技術である「Qualcomm Expanded Personal Area Network Technology(XPAN)」を発表した。同技術はワイヤレスオーディオ向けSoCのフラグシップである「Qualcomm S7 Pro Gen 1 Sound Platform」と、Snapdragonシリーズのモバイル向け8 Gen 3以上のチップと、コンピューティング向けXシリーズを接続した際に有効になる。 これまでQualcomm XPANは送信側・受信側の機器による1対1のP2P接続にのみ対応していたが、今後予定するアップデートによりヘッドホン、イヤホンにスピーカーなどワイヤレスオーディオが単体でWi-Fiアクセスポイントにつなげられるようになる。P2P接続時はWi-Fiの周波数帯が2.4GHzと5GHzに限られるが、アクセスポイントに直結する場合は6GHzも新たにサポートするという。 特に新しいSnapdragonとBluetoothオーディオのSoCに関するワイヤレスオーディオ周辺の進化については現地でさらに取材を進める。わかった詳細については別途報告したい。
山本 敦