成田凌、“映画俳優”としての現在地 『スマホを落としただけなのに』に刻んだ成長を読む
成田凌のシーズンがやってきている。この秋から冬にかけては完全に彼のシーズンだ。 現在は主演を務めた『スマホを落としただけなのに ~最終章~ ファイナル ハッキング ゲーム』(以下、『スマホ最終章』)が公開中であり、これに続くかたちでさらなる主演作『雨の中の慾情』も11月末に公開。12月に入ると映画『【推しの子】』も公開されることになる。ドラマ作品や演劇領域でもアクティブな活動を展開する成田だが、いま“映画俳優”としての彼の季節が到来しているのである。 【写真】浦野善治(成田凌)が見せる恐ろしい表情 出演最新作である『スマホ最終章』で成田が演じているのは、主人公の浦野善治。長い黒髪の女性ばかりを狙う連続殺人鬼であり、人の心をも自在に操ってみせる天才的なブラックハッカーだ。 前作の『スマホを落としただけなのに 囚われの殺人鬼』(2020年)は彼のことを追う刑事との対決を描いたもので、成田はタイトルロールに当たる存在を演じた。そして前々作であるシリーズ1作目の『スマホを落としただけなのに』(2018年)の役どころは“真犯人”であり、“ラスボス”的な存在であった。結果として3作も制作されるほどのヒットに成田は貢献し、自身の演じたキャラクター=浦野善治を作品の顔となるレベルにまで持ってきた。これが原作の流れをなぞったものだとしても、偉業であることに変わりはない。映画が作られるのにはかなり高いハードルがあるのだから。 まもなく俳優デビュー10周年となる成田は、いまではさまざまな作品で主演を務めることのできる器の持ち主だ。代表作としてはいろんな作品が挙げられると思うのだが、個人的に彼のベスト・パフォーマンスが刻まれているのは本シリーズな気がしている。それもシリーズを重ねるごとに彼の力は強度を増している。3作品ものシリーズをとおしてひとりのキャラクターを演じ続けられる機会はかぎられているのだから、この『スマホを落としただけなのに』は彼にとっても非常に重要なタイトルなのではないだろうか。 シリーズ第1作目の時点ですでに「怪演」と呼ぶに相応しいパフォーマンスを展開していた成田だが、第3作目ともなると浦野善治の狂気や異常性というものは“垣間見える”といったレベルに留まっている。前作と前々作ではほかの者たちの目から見た凶悪な殺人鬼像を立ち上げなければならなかったのに対し、本作がフォーカスするのは浦野という人物の日常や心の動きだ。彼は凶悪な殺人鬼である以前に、ひとり人間である。だから成田が私たち観客にまず提示しなければならないのは、浦野の異常性などではなく、彼と対峙する刑事や被害者の視点とはまったく異なる立ち位置から見たもの。我々はこの凶悪犯の日常に寄り添うことになる。それが本作だ。